お題小説

ルカ(聖夜月ルカ)

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058 : お母さんのぬいぐるみ

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そんなものが本当に私にあるのだろうか?
私はただの駄目な人間なのではないかと思う事がよくある。
何をやっても特に得意だと感じる事がない。
オーバンと共に、ソレイユの屋敷で働いていた時も、やっていたのは誰にでも出来るつまらない雑用ばかりだった。
何でもうまくそつなくこなせる者がいる反面、なにをやってもうまく出来ない不器用な人間がいる。

私はそちら側なのではないか…
そんなことを考えると、自己嫌悪に陥りそうだった。



それからも、毎日、本棚の製作は続いた。
完成も間近だと思われたある日、リュックが釘が足りないというので、クロワの使っている納戸に探しに行った時のことだった。

アデリーヌの母親の部屋の中から人の話し声がした。
アデリーヌの声だった。
もしかしたら、私達が忙しくしているため一人で寂しいのかと思い扉をノックした。



「誰?」

「私です。マルタンです。」

「マルタンさん…?」

私の名を聞いて、アデリーヌの声が和らいだ。



「…あ、すみません。
邪魔をするつもりはなかったんですが…」

「邪魔…?」

「ティアナとお話してたのでしょう?」

「……父さんから聞いたのね。
まぁ、良いわ。
お入りになる?」

「えっ?良いんですか?」

「あなたなら良いわよ。」

ジュスタンがクロワを部屋に入れようとした時あんなに怒ったアデリーヌが、なぜ、私を入れてくれるのかはわからなかったが、不思議な程、快く通してくれた。

その部屋は、数年前に亡くなったアデリーヌの母の部屋だと聞いていた。
しかし、今でも誰かがそこで毎日暮らしているかのようなそんな生活感を感じる部屋だった。



「マルタンさん、これがティアナよ。」

「ティアナ…」

どこにでもある、ごく典型的なテディベアだった。
古いものなのだろうが、扱いが丁寧だったのか、あまり古びた雰囲気はしない。



「父さん、私のこと、おかしな子だって言ってたんでしょ。
ぬいぐるみと話をしてるおかしな子だって。」

「そんなことはおっしゃってないですよ。」

「……あなたは本当に優しいのね。
私を可哀想な子だと思ってる?」

「思ってませんよ。」

「私はクマのぬいぐるみと毎日みたいに話してるのよ。
おかしいと思うでしょう?」

「思ってません。」
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