265 / 641
027 : 月の船
5
しおりを挟む
そう思った時、ラザールの駒が動いた。
なせだ?なぜ、そんな所にその駒を…?!
一瞬、ラザールのトラップかとも思ったが、そうではなかった。
その一手をきっかけに、彼は何度もミスを繰り返すようになった。
彼の顔には玉のような汗が噴出している。
こんなに焦っているラザールを見るのは初めてだ。
それに乗じて私はどんどん彼の駒を取って行く事が出来た。
これではまるで初心者とやっているようなものだ。
彼が打つ手はすべて裏目に出、そして、私は自分でも信じられない程楽に彼を打ち負かすことが出来たのだ。
それは、すなわち、私が十連覇の偉業を成し遂げたということ。
正真正銘の覇者となったということを意味する。
会場は、割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。
司会者の声もまともには聞こえない。
そして、私は一際大きな金のトロフィーを受け取った。
ずしりと重いそのトロフィーは、これまでの十年間の苦しみの重さのように思えた。
人々はトロフィーを手にした私の姿に、さらに大きな称賛の拍手を送り、それはいつまでも鳴りやまなかった。
その後、町のお偉方とのちょっとした会食が行われた。
私はトロフィーを両親や妻や娘に見せたかったのだが、主役の私が抜けるわけにはいかない。
この退屈な会食が早く終わらないかと気を揉みながら、人々のつまらない話にへたくそな作り笑顔で応えていた。
会食は思いの外、長く続いた。
それなのに二次会を開こうという話までが出ている。
そこまでつきあっていたら間違いなく朝になる。
私は疲れたということを理由にやっと引き上げる事が出来た。
もうずいぶんと遅い時間になってはいたが、とにかくトロフィーを見せたくて両親の家に向かった。
会場には見に来てただろうと思うのだが、とにかくこのトロフィーを両親にも持たせてやりたかった。
いや、ぜひとも持ってみてほしかったのだ。
私の十年間の苦労の…そして明日から生まれ変わる私の決意の重みというものを…
私は暗い夜道を走り抜けた。
その角を曲がれば、両親の…私の生まれ育った家だ…
しかし…そこに家はなかった…
あるはずの家がないのだ…!
(馬鹿な…!!)
私はあたりを見まわした。
いくら暗いとはいえ、自分の生まれ育った家を間違える馬鹿はいない。
今日は酒だって一滴も飲んじゃいないんだ。
なせだ?なぜ、そんな所にその駒を…?!
一瞬、ラザールのトラップかとも思ったが、そうではなかった。
その一手をきっかけに、彼は何度もミスを繰り返すようになった。
彼の顔には玉のような汗が噴出している。
こんなに焦っているラザールを見るのは初めてだ。
それに乗じて私はどんどん彼の駒を取って行く事が出来た。
これではまるで初心者とやっているようなものだ。
彼が打つ手はすべて裏目に出、そして、私は自分でも信じられない程楽に彼を打ち負かすことが出来たのだ。
それは、すなわち、私が十連覇の偉業を成し遂げたということ。
正真正銘の覇者となったということを意味する。
会場は、割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。
司会者の声もまともには聞こえない。
そして、私は一際大きな金のトロフィーを受け取った。
ずしりと重いそのトロフィーは、これまでの十年間の苦しみの重さのように思えた。
人々はトロフィーを手にした私の姿に、さらに大きな称賛の拍手を送り、それはいつまでも鳴りやまなかった。
その後、町のお偉方とのちょっとした会食が行われた。
私はトロフィーを両親や妻や娘に見せたかったのだが、主役の私が抜けるわけにはいかない。
この退屈な会食が早く終わらないかと気を揉みながら、人々のつまらない話にへたくそな作り笑顔で応えていた。
会食は思いの外、長く続いた。
それなのに二次会を開こうという話までが出ている。
そこまでつきあっていたら間違いなく朝になる。
私は疲れたということを理由にやっと引き上げる事が出来た。
もうずいぶんと遅い時間になってはいたが、とにかくトロフィーを見せたくて両親の家に向かった。
会場には見に来てただろうと思うのだが、とにかくこのトロフィーを両親にも持たせてやりたかった。
いや、ぜひとも持ってみてほしかったのだ。
私の十年間の苦労の…そして明日から生まれ変わる私の決意の重みというものを…
私は暗い夜道を走り抜けた。
その角を曲がれば、両親の…私の生まれ育った家だ…
しかし…そこに家はなかった…
あるはずの家がないのだ…!
(馬鹿な…!!)
私はあたりを見まわした。
いくら暗いとはいえ、自分の生まれ育った家を間違える馬鹿はいない。
今日は酒だって一滴も飲んじゃいないんだ。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
幽子さんの謎解きレポート~しんいち君と霊感少女幽子さんの実話を元にした本格心霊ミステリー~
しんいち
キャラ文芸
オカルト好きの少年、「しんいち」は、小学生の時、彼が通う合気道の道場でお婆さんにつれられてきた不思議な少女と出会う。
のちに「幽子」と呼ばれる事になる少女との始めての出会いだった。
彼女には「霊感」と言われる、人の目には見えない物を感じ取る能力を秘めていた。しんいちはそんな彼女と友達になることを決意する。
そして高校生になった二人は、様々な怪奇でミステリアスな事件に関わっていくことになる。 事件を通じて出会う人々や経験は、彼らの成長を促し、友情を深めていく。
しかし、幽子にはしんいちにも秘密にしている一つの「想い」があった。
その想いとは一体何なのか?物語が進むにつれて、彼女の心の奥に秘められた真実が明らかになっていく。
友情と成長、そして幽子の隠された想いが交錯するミステリアスな物語。あなたも、しんいちと幽子の冒険に心を躍らせてみませんか?
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる