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ルカ(聖夜月ルカ)

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027 : 月の船

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そう思った時、ラザールの駒が動いた。

なせだ?なぜ、そんな所にその駒を…?!

一瞬、ラザールのトラップかとも思ったが、そうではなかった。

その一手をきっかけに、彼は何度もミスを繰り返すようになった。

彼の顔には玉のような汗が噴出している。
こんなに焦っているラザールを見るのは初めてだ。

それに乗じて私はどんどん彼の駒を取って行く事が出来た。
これではまるで初心者とやっているようなものだ。

彼が打つ手はすべて裏目に出、そして、私は自分でも信じられない程楽に彼を打ち負かすことが出来たのだ。
それは、すなわち、私が十連覇の偉業を成し遂げたということ。

正真正銘の覇者となったということを意味する。

会場は、割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。
司会者の声もまともには聞こえない。

そして、私は一際大きな金のトロフィーを受け取った。
ずしりと重いそのトロフィーは、これまでの十年間の苦しみの重さのように思えた。

人々はトロフィーを手にした私の姿に、さらに大きな称賛の拍手を送り、それはいつまでも鳴りやまなかった。

その後、町のお偉方とのちょっとした会食が行われた。 
私はトロフィーを両親や妻や娘に見せたかったのだが、主役の私が抜けるわけにはいかない。
この退屈な会食が早く終わらないかと気を揉みながら、人々のつまらない話にへたくそな作り笑顔で応えていた。

会食は思いの外、長く続いた。
それなのに二次会を開こうという話までが出ている。
そこまでつきあっていたら間違いなく朝になる。
私は疲れたということを理由にやっと引き上げる事が出来た。

もうずいぶんと遅い時間になってはいたが、とにかくトロフィーを見せたくて両親の家に向かった。
会場には見に来てただろうと思うのだが、とにかくこのトロフィーを両親にも持たせてやりたかった。
いや、ぜひとも持ってみてほしかったのだ。
私の十年間の苦労の…そして明日から生まれ変わる私の決意の重みというものを…

私は暗い夜道を走り抜けた。
その角を曲がれば、両親の…私の生まれ育った家だ…



しかし…そこに家はなかった…
あるはずの家がないのだ…!

(馬鹿な…!!)

私はあたりを見まわした。
いくら暗いとはいえ、自分の生まれ育った家を間違える馬鹿はいない。
今日は酒だって一滴も飲んじゃいないんだ。 
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