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007 : バラの村
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予定通り、次の日からクロワは再びマルタンの捜索を始めた。
しかし、それは以前探した時よりもさらに困難なことだった。
夏至祭を楽しみに来ていた客達は、すでにこの町を離れている。
夏至祭からはもう三週間近い日にちが過ぎているのだ。
皮肉なことに、訊ねる相手が少なくなったことで、クロワの作業は楽にはなっていた。
町中の人に話を聞いてまわっても、時間をもてあます。
悪いことに、時間があると、人はつい考え事をしてしまう。
しかも、そんな時に考えることはほとんどが悪いことばかりと決まっている。
(……やっぱり、マルタンさんはミシェルさんの言う通り、あの山道で事故に遭われたのかもしれない…)
傷付き血にまみれたマルタンが、谷底深くから力なく手を差しのべている幻影がクロワの脳裏に浮かぶ…
マルタンは苦しそうに顔を歪め、やがて、その手が震えた後にがっくりと落ち……
「やめて~~~!!」
恐ろしい幻影を頭から振り払おうとするが、それはなかなか消えない。
クロワはがむしゃらに走った。
自分でもどこに向かって走っているのかわからなかったが、何か怖ろしいものから逃げるようにひたすらに走った。
しばらくすると、じわじわと涙が溢れ、先が見えなくなっていた。
クロワは袖で涙を拭いながら走った。
泣いているせいで苦しい息を堪えながら…
(どうせなら、このまま息が切れて死ねたら良いのに…)
角を曲がろうとしてバランスを崩し、クロワは無様に転んだ。
クロワは立ち上がり、服についた泥さえ気にすることなくなおも走り続けた。
そのうちに修道院の高い三角屋根が見えてきた。
クロワの瞳にさらに涙が溢れてくる。
クロワは修道院の裏木戸を叩いた。
力を込めて何度も何度も…
修道院に着いた途端に、足の力が抜けそうになり、がくがくと震えていた。
「まぁ!クロワさん…!
一体、何が…」
服を泥だらけにして、涙で濡れた顔を見て、シスターは驚きの声を上げた。
その言葉が言い終わらないうちに、クロワはシスターにすがりつき、子供のように泣きじゃくる。
彼女の心の中に張りつめていたものが、ぷつんと切れてしまったのだ。
もう頑張れない…
怖い…!
助けて…!!
様々な感情が一気にクロワの身体から吹き出してしまったのだ。
クロワは本当に息が止まってしまうかと思うほど、泣いて泣いて泣きじゃくった。
「クロワさん、大丈夫よ…」
シスターはその間ずっとクロワの背中をさすりながら、そう囁いていた。
その言葉と温もりに、クロワは少しづつ癒されていく…
しかし、それは以前探した時よりもさらに困難なことだった。
夏至祭を楽しみに来ていた客達は、すでにこの町を離れている。
夏至祭からはもう三週間近い日にちが過ぎているのだ。
皮肉なことに、訊ねる相手が少なくなったことで、クロワの作業は楽にはなっていた。
町中の人に話を聞いてまわっても、時間をもてあます。
悪いことに、時間があると、人はつい考え事をしてしまう。
しかも、そんな時に考えることはほとんどが悪いことばかりと決まっている。
(……やっぱり、マルタンさんはミシェルさんの言う通り、あの山道で事故に遭われたのかもしれない…)
傷付き血にまみれたマルタンが、谷底深くから力なく手を差しのべている幻影がクロワの脳裏に浮かぶ…
マルタンは苦しそうに顔を歪め、やがて、その手が震えた後にがっくりと落ち……
「やめて~~~!!」
恐ろしい幻影を頭から振り払おうとするが、それはなかなか消えない。
クロワはがむしゃらに走った。
自分でもどこに向かって走っているのかわからなかったが、何か怖ろしいものから逃げるようにひたすらに走った。
しばらくすると、じわじわと涙が溢れ、先が見えなくなっていた。
クロワは袖で涙を拭いながら走った。
泣いているせいで苦しい息を堪えながら…
(どうせなら、このまま息が切れて死ねたら良いのに…)
角を曲がろうとしてバランスを崩し、クロワは無様に転んだ。
クロワは立ち上がり、服についた泥さえ気にすることなくなおも走り続けた。
そのうちに修道院の高い三角屋根が見えてきた。
クロワの瞳にさらに涙が溢れてくる。
クロワは修道院の裏木戸を叩いた。
力を込めて何度も何度も…
修道院に着いた途端に、足の力が抜けそうになり、がくがくと震えていた。
「まぁ!クロワさん…!
一体、何が…」
服を泥だらけにして、涙で濡れた顔を見て、シスターは驚きの声を上げた。
その言葉が言い終わらないうちに、クロワはシスターにすがりつき、子供のように泣きじゃくる。
彼女の心の中に張りつめていたものが、ぷつんと切れてしまったのだ。
もう頑張れない…
怖い…!
助けて…!!
様々な感情が一気にクロワの身体から吹き出してしまったのだ。
クロワは本当に息が止まってしまうかと思うほど、泣いて泣いて泣きじゃくった。
「クロワさん、大丈夫よ…」
シスターはその間ずっとクロワの背中をさすりながら、そう囁いていた。
その言葉と温もりに、クロワは少しづつ癒されていく…
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