32 / 641
005 : 夏至祭の女王
11
しおりを挟む
*
「か、母さん!!」
「……ジャン……」
母親が目を覚ましていることに気付いたジャンは、潤んだ瞳で母親に飛びついた。
「…母さん…気がついたんだね…良かった…良かった…」
「…ジャン…心配かけてすまなかったね…
母さんは…もう大丈夫だから…
本当にすまなかったね。
…ジャン…アンリは…?
アンリは…どこかに行ってるのかい?」
「……母さん…お兄ちゃんは…」
「マダム、彼は今、ちょっと町へ行っているのです…」
「え…?」
振り向くジャンに私は小さく目配せをした。
「そろそろ、薬を飲む時間ですね。
ジャン、私達も食事の用意をしなくてはいけないな。
手伝っておくれ!」
そう言って、私はジャンを台所に連れ出した。
「マルタンさん、お兄ちゃんのこと…」
「…もう少しお母さんがよくなるまで黙っていような…
今、知ってまた身体が弱ったら大変だ…」
「……うん、わかった…」
一時凌ぎの嘘にすぎない…
いずれは話さなくてはならないこと…いや、話さなくともわかってしまうことだ。
しかし、今の彼女にはその現実に直面するだけの力はないだろう…
せめてもう少し回復するまでは黙っていた方が良い。
ジャンは食事をする間も母親のそばを離れなかった。
母親が回復したことが嬉しくてたまらないようだ。
「ジャン、そろそろお母さんを休ませてあげないといけないぞ。」
「じゃ、僕、母さんが眠るまでここにいてあげるよ。
子守唄、歌ってあげるね…」
「ありがとうよ、ジャン…」
澄んだ歌声を響かせながら、ジャンは母親に向かって子守唄を歌いだした。
私はその歌を知っていたのかどうかはわからないが、聴いているとどこか懐かしい…
幸せな二人の邪魔をしないように、私はそっと外に出た。
歩きながら、小屋の裏の小さな墓に目が向いた。
あと何日かしたら、この墓に眠るアンリのことを話さねばならない…
その時のジャンと母親の気持ちを考えると、胸が締め付けられる想いがする。
私は近くに咲いていた薄桃色の花を摘み、墓に手向けた。
伝説を信じ…自分の命を顧みず、夜光珠の盃を取りに行った少年…
……少年は最期の瞬間にどんなことを考えたのだろうか…?
「か、母さん!!」
「……ジャン……」
母親が目を覚ましていることに気付いたジャンは、潤んだ瞳で母親に飛びついた。
「…母さん…気がついたんだね…良かった…良かった…」
「…ジャン…心配かけてすまなかったね…
母さんは…もう大丈夫だから…
本当にすまなかったね。
…ジャン…アンリは…?
アンリは…どこかに行ってるのかい?」
「……母さん…お兄ちゃんは…」
「マダム、彼は今、ちょっと町へ行っているのです…」
「え…?」
振り向くジャンに私は小さく目配せをした。
「そろそろ、薬を飲む時間ですね。
ジャン、私達も食事の用意をしなくてはいけないな。
手伝っておくれ!」
そう言って、私はジャンを台所に連れ出した。
「マルタンさん、お兄ちゃんのこと…」
「…もう少しお母さんがよくなるまで黙っていような…
今、知ってまた身体が弱ったら大変だ…」
「……うん、わかった…」
一時凌ぎの嘘にすぎない…
いずれは話さなくてはならないこと…いや、話さなくともわかってしまうことだ。
しかし、今の彼女にはその現実に直面するだけの力はないだろう…
せめてもう少し回復するまでは黙っていた方が良い。
ジャンは食事をする間も母親のそばを離れなかった。
母親が回復したことが嬉しくてたまらないようだ。
「ジャン、そろそろお母さんを休ませてあげないといけないぞ。」
「じゃ、僕、母さんが眠るまでここにいてあげるよ。
子守唄、歌ってあげるね…」
「ありがとうよ、ジャン…」
澄んだ歌声を響かせながら、ジャンは母親に向かって子守唄を歌いだした。
私はその歌を知っていたのかどうかはわからないが、聴いているとどこか懐かしい…
幸せな二人の邪魔をしないように、私はそっと外に出た。
歩きながら、小屋の裏の小さな墓に目が向いた。
あと何日かしたら、この墓に眠るアンリのことを話さねばならない…
その時のジャンと母親の気持ちを考えると、胸が締め付けられる想いがする。
私は近くに咲いていた薄桃色の花を摘み、墓に手向けた。
伝説を信じ…自分の命を顧みず、夜光珠の盃を取りに行った少年…
……少年は最期の瞬間にどんなことを考えたのだろうか…?
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
幽子さんの謎解きレポート~しんいち君と霊感少女幽子さんの実話を元にした本格心霊ミステリー~
しんいち
キャラ文芸
オカルト好きの少年、「しんいち」は、小学生の時、彼が通う合気道の道場でお婆さんにつれられてきた不思議な少女と出会う。
のちに「幽子」と呼ばれる事になる少女との始めての出会いだった。
彼女には「霊感」と言われる、人の目には見えない物を感じ取る能力を秘めていた。しんいちはそんな彼女と友達になることを決意する。
そして高校生になった二人は、様々な怪奇でミステリアスな事件に関わっていくことになる。 事件を通じて出会う人々や経験は、彼らの成長を促し、友情を深めていく。
しかし、幽子にはしんいちにも秘密にしている一つの「想い」があった。
その想いとは一体何なのか?物語が進むにつれて、彼女の心の奥に秘められた真実が明らかになっていく。
友情と成長、そして幽子の隠された想いが交錯するミステリアスな物語。あなたも、しんいちと幽子の冒険に心を躍らせてみませんか?
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる