STORY BOXⅡ

ルカ(聖夜月ルカ)

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079.久遠の絆

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次の朝、アーロンがいなくなったことで町は大騒ぎになっていた。
アーロンの父親がクレアの家に訪ねて来たが、クレアはなにも知らないと答えた。
それは嘘でもあり、真実でもあった。
クレアは、彼がどこに行こうとしていたかは一切聞いていなかったのだから。



アーロンの父親は八方手を尽くしてアーロンの行方を探したが、その行方はようとして知れなかった。
クレアもアーロンのことを想っては、日々辛い毎日を送っていたが、アーロンからは手紙の一通も届く事はなかった。



やがて、歳月は流れ、クレアは28歳の時に5つ年上のディランと結婚し町を離れた。
 真面目で誠実なディランとの結婚生活は、燃えるような情熱こそなかったが、穏やかで満ち足りたものだった。
 長い間実家を苦しめていた借金の返済もやっと終わり、弟のラリーも学校を出て働き始め、クレアの心配の種がなくなったことで、クレアもようやくディランとの結婚を決意したのだった。
 幸せな日々の中でも、クレアは時折アーロンのことを思い出す事があった。
 「あの日」以来、何の連絡もなく、誰一人として噂さえ聞いたことがないアーロン。
それは、若き日の甘酸っぱい恋の記憶にしては大きく重いものだった。



 (ディランと結婚したのに、まだあなたのことが忘れられない…
きっとあんな別れ方をしたせいね。
いつの日か、あなたに会って謝りたい。
そして、本当はあなたと一緒に行くつもりだったことを伝えたい!)

そんな想いをクレアは胸の奥深くに隠しつつ、ディランとの生活は順調に続いた。
 子供には恵まれなかったが、二人の暮らしは人並みの幸せを保ち、ずっとその幸せが続くものだと感じていた。
そんな矢先、ディランが職場の事故であっけなくこの世を去った。
クレアが50を少し過ぎた時のことだった。
 会社から出た賠償金のおかげで、クレアが生活に困る事はなかったが、ディランがいなくなったことで、クレアの心にはぽっかりと大きな穴があいたようだった。
 魂の抜けたような毎日を過ごしていたある日、クレアは今まで感じたことのない胸の痛みを感じ、病院に担ぎこまれた。
 医師から告げられた言葉は、残酷なものだった。
クレアの心臓はすでに手の施しようがない状態で、もってあと1年だろうということだった。
 年老いた両親や弟はそのことで大きなショックを受け、それでもなんとか治療法を探してほしいと医師に懇願したが、クレアはそのことを特に悔やむことはなく、むしろディランが迎えに来てくれたのだと感じ受け入れた。
クレアのただ一つの心残りはアーロンのこと。
クレアは伝えきれなかった想いを手紙に書いて書き残そうかとも考えたが、その手紙がアーロンの手に渡る可能性は極めて少ない。
 関係のない人に見られるのがいやで、クレアは書き遺すことを躊躇った。
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