STORY BOXⅡ

ルカ(聖夜月ルカ)

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070.柔らかな風

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(こんな壁さえなければ……)



 憎しみと諦めの入り混じった視線で壁をきっとにらみつけ、そして、ウェンディは草原にどさりと身を沈めた。
 膝上程の高さしかない草だが、寝転ぶとウェンディの姿をすっぽりと隠してしまう。



 (こうやってまっすぐに空を見上げたら、ここが高い壁に囲まれてることを忘れられる……)



ここが閉鎖された世界であることも
数ヶ月後に迫った結婚のことも
 ファビアンと離れ離れになることも…



「こら!そんな所でサボってるのはどこのどいつだ!」

 不意に耳に届いた大きな声に、ウェンディは驚いて身を起こす。



 「ファビアン!……どうしてわかったの!?」

 「おまえのことなら俺はなんだってわかるのさ。」



 本当は遠くからウェンディのことを見ていたこと等おくびにも出さず、ファビアンは自慢気にそう言ってのけた。
ウェンディは不思議に感じながらも、理由がわからずただ曖昧に笑う。



 「ねぇ、ファビアン…もう一度ここで空を見てみない?
ここはあそこよりも風が気持ち良いわよ。」

 「あっちの方が暖かいのに…」

 口ではそう言いながらも、ファビアンはゆっくりとウェンディの傍に近付いた。



 「ほら…ここは風がとても優しいでしょう?」

 「……まぁな。」

 「ここで空を見ましょうよ。」

 「夕食の支度は良いのか?」

 「すぐに帰るわ。
ほんの少しだけ…」



 二人は、草原に寝転んで空を見上げた。
 柔らかな風が草を揺らし、さやさやと静かな音を立てる。



 「いつか…限りのない空が見たいわ。」

 「……俺も……」

 「えっ!?今、なんて…」

 「なにも言ってないよ。」



 驚いて顔をのぞきこむウェンディには目もくれず、ファビアンは真っ直ぐに空をみつめ続ける…
ファビアンのそんな様子にウェンディも諦めて、再び空を見上げた。



 (いつか、きっと……)



 ~Fin

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