夢の硝子玉

獣人

３

＊




「ダルシャ、今夜は私とデートするって言ったじゃない！」

「何言ってるのよ！今夜は私と一緒に過ごすのよ！」

「あんた達、馬鹿じゃないの！
ダルシャは、私と朝まで過ごすの…ねぇ、ダルシャ！」

うらぶれた酒場の片隅で、女性達の罵声が飛び交う。
女達の諍いの元となった男を、客の男達は嫉妬の…そして女性達はとろけるような熱い眼差しでみつめた。



「ちっ、なんでぇ、なんでぇ。
若くてちょっと顔が良いくらいで、この町の女達は皆あいつにちやほやしやがって。」

「それだけならともかく、あいつはどこだかの領主の息子でその上剣の達人だって話だぜ。
俺達が太刀打ち出来る相手じゃねぇ。
良いじゃねぇか、今夜は俺達だけで飲もうぜ…」

男は舌打ちし、ダルシャから視線を逸らした。



数日前、この町にダルシャという男がふらりと立ち寄ってからというもの、商売女も素人も、老いも若きも女という女がその魅力的な若い男性に夢中になった。
その端正な顔立ち、都会的なセンスに、上品な物腰。
そのくせ、高ぶったところがなく、女性の扱いに慣れた巧みな会話と来れば、モテないはずがなかった。



「困った子猫ちゃん達だね。
私に君達の中から一人だけを選ぶなんて、そんな罪なこと、出来るわけないだろう？
君達は皆そんなに素敵なんだもの…」

そう言って放たれたダルシャのウィンクに、女性達の甲高い歓声が上がる。



「今のは私に向かってしてくれたのよ！」

「違うわ！私よ！！」

「私に決まってるでしょう！」

女性達の熱き闘いが繰り広げられる中、当のダルシャは優雅にワイングラスを傾けながら勝者が決まるのを待っていた。



「ここ…良いかしら？」

不意にかけられた声にダルシャが顔を上げると、そこにはたいそう魅力的な女性が立ち、静かに微笑んでいた。
女性を見た瞬間、ダルシャの顔に飛びっきりの笑顔が浮かぶ。



「……ここは騒がしい。
場所を変えて話そうよ。」

そう言うとダルシャは立ちあがり、女性の腰に手を回し、店の外に歩き出した。
ダルシャの耳には、残してきた女性達の声ももう届かない。



（この町にまだこんな素敵な女の子がいたなんて…
……今夜が楽しみだ。）

ダルシャの瞳が妖しく光る。