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故郷へ
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「さて……それではどこから聞かせてもらおうか。」
広い居間で、アンドリューと差し向かいのダルシャは、その場の気まずさを振り払うかのように、グラスのワインをぐいと飲み干した。
「本当に申し訳ありませんでした。」
「詫びならもう良い。
私は、この長い旅の理由を聞きたいだけだ。」
「それは…ですね。」
険しい顔のアンドリューを前にすると、なかなか最初の一言が出てこないダルシャだった。
「どうした?」
「あ…そうだ。父上、確か、とっておきのワインがありましたね。
久しぶりの再会を祝して、あの酒を……」
「ダルシャ、そんなことは……」
ダルシャは父親の声が聞こえなかったかのように立ち上がり、扉を開け、声をかけた。
「誰か、いないか。」
「はい、ダルシャ様!なにか?」
すぐに飛んで来たメイドに、ダルシャはワインを持って来ることと、セリナとエリオットを呼んで来ることを良い付けた。
「ダルシャ、私はおまえとふたりで話したいのだ。
なぜ、他の者を呼ぶ?」
「……聞こえてしまいましたか。」
決まりの悪い薄笑いを浮かべたダルシャが、ゆっくりと席に戻った。
「私だけでは、おそらく父上は信じて下さらないでしょう。
ですから、その証人の意味で……」
その時、扉を叩く音が響いた。
「早いな、どうぞ!」
「ごめんなさいね、お邪魔だったかしら?」
「リュシー叔母様。」
入って来たのは、ダルシャが期待していたセリナでもエリオットでもない、叔母のリュシーだった。
「なんだ、リュシー……」
「いえ…私も彼らの旅のことを少しは知ってますし…それに、お兄様にまだ言ってないこともあったから…」
「言ってないことだと…?」
アンドリューの眉間に深い皺が刻まれた。
「リュシー叔母様、ラスターとの話し合いは……」
「それが、今日は疲れたから寝るって言って…会ってくれなかったの。」
「……ラスターの奴……」
「人のことは言えないぞ。
全く、お前たちと言ったら……」
再び、ノックの音が部屋に響き、ワインを持ったメイドとその後ろに隠れるように立つ、セリナとエリオットの姿があった。
「さて……それではどこから聞かせてもらおうか。」
広い居間で、アンドリューと差し向かいのダルシャは、その場の気まずさを振り払うかのように、グラスのワインをぐいと飲み干した。
「本当に申し訳ありませんでした。」
「詫びならもう良い。
私は、この長い旅の理由を聞きたいだけだ。」
「それは…ですね。」
険しい顔のアンドリューを前にすると、なかなか最初の一言が出てこないダルシャだった。
「どうした?」
「あ…そうだ。父上、確か、とっておきのワインがありましたね。
久しぶりの再会を祝して、あの酒を……」
「ダルシャ、そんなことは……」
ダルシャは父親の声が聞こえなかったかのように立ち上がり、扉を開け、声をかけた。
「誰か、いないか。」
「はい、ダルシャ様!なにか?」
すぐに飛んで来たメイドに、ダルシャはワインを持って来ることと、セリナとエリオットを呼んで来ることを良い付けた。
「ダルシャ、私はおまえとふたりで話したいのだ。
なぜ、他の者を呼ぶ?」
「……聞こえてしまいましたか。」
決まりの悪い薄笑いを浮かべたダルシャが、ゆっくりと席に戻った。
「私だけでは、おそらく父上は信じて下さらないでしょう。
ですから、その証人の意味で……」
その時、扉を叩く音が響いた。
「早いな、どうぞ!」
「ごめんなさいね、お邪魔だったかしら?」
「リュシー叔母様。」
入って来たのは、ダルシャが期待していたセリナでもエリオットでもない、叔母のリュシーだった。
「なんだ、リュシー……」
「いえ…私も彼らの旅のことを少しは知ってますし…それに、お兄様にまだ言ってないこともあったから…」
「言ってないことだと…?」
アンドリューの眉間に深い皺が刻まれた。
「リュシー叔母様、ラスターとの話し合いは……」
「それが、今日は疲れたから寝るって言って…会ってくれなかったの。」
「……ラスターの奴……」
「人のことは言えないぞ。
全く、お前たちと言ったら……」
再び、ノックの音が部屋に響き、ワインを持ったメイドとその後ろに隠れるように立つ、セリナとエリオットの姿があった。
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