夢の硝子玉

ペルージャの獣人

１８

扉の前で立ち止まり、ダルシャは小さな咳払いを一つ落とした。
それから、固くなった表情のまま、ゆっくりと…力強く、扉を叩く。

その音と酷く緊張した空気が、少し離れた木陰にいる二人にもしっかりと伝わった。



 （ダルシャ、大丈夫かな？）

 （気を抜くなよ、きっと扉が開くと同時に飛びかかってくるぞ。）



ダルシャは手を伸ばし、ドアノブを回したが、やはり扉には鍵がかかっていた。
そのことも、そして煙突から伸びる細い煙も、小屋の中に誰かいることを物語っている。



 「こんにちは。
 私はダルシャという旅の者です。
 悪意はありません。
どうか信じて下さい。
 私はあなたと話がしたいだけなんです。」

ダルシャは開かれない扉に向かって声をかけた。



その時、小屋の横手から棒切れを持った獣人がゆっくりとダルシャの背後に回り込む様子が二人の目に映った。



 「ダルシャ、危ない！」

 「え…？」

ダルシャが振り返ったのと、堅そうな棒がダルシャの脳天に振り下ろされたのはほぼ同時だった。
 獣人がエリオットの声にひるんだ数分の１秒のお蔭で、ダルシャはあやうくそれを交わすことが出来た。



 「やめろ！私は、あなたに害を与えるためにやって来たんじゃない！」

ダルシャの叫び声は、獣人の耳には届かない。
 獣人は低いうなり声をあげながら、何度もダルシャに棒切れを振り下ろす。

エリオットとラスターも木陰から飛び出し、ダルシャに加勢しようとするものの、二人の距離が近すぎて、手を出すことが出来ずにいた。




 「しつこい人間め！そんなに俺のことが邪魔なのか！」

 獣人の目は赤く血走り、口端には白い泡を拭いていた。
ほとばしる激しい殺気に、ダルシャも身をかわすことだけしか出来なかった。



 「くっそー！なんてすばしこい奴なんだ！
これじゃあ、入り込む余地がない！」

 「そうだね。ボクも今魔法を使ったら、逆にダルシャを傷つけてしまうかもしれない。」

 二人は焦る気持ちを抑え、獣人とダルシャの息詰まる戦闘をただ見守るしかなかった。