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石の巫女の護り人
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「……だから……
巫女は好きな人とは結ばれないっていうのは……そういうことだったのね……」
部屋の中の静寂を破ったのはセリナのか細い声だった。
「そんな酷い……」
「……わし達は言ってみれば巫女に新しい命を与えるために生かされているようなもんなんだ。
残念ながらわしはそんな機会にも恵まれずおめおめとここまで生き延びてしまった。
だが、わしには息子がいる。
わしの代わりにその息子が……」
「そんな勝手なこと…!
あんたは良くても息子はどうなんだ!?
本当にそれで良いって思ってるのか?」
老人は悲しげな瞳でラスターの顔をじっとみつめた。
「おまえさんには理解出来ないかもしれないが、わしらはその運命を受け入れている。
それは息子も同じことだ。
わしらはこうやってずっと昔から巫女を護って来たんだ。
こうすることがわしらの使命なのだからな……」
その言葉を聞いた途端、セリナは顔を覆って肩を震わせた。
エリオットは、隣でセリナの肩を優しく抱き締める。
*
「……これからどうするんだ?」
「ここにいてはセリナも気が晴れないかもしれない。
港町に出発しようかと考えている。」
「イリヤの家族はどうする?」
「そうだな……おぉ、そうだ。
一緒に港町まで行けば良い。
そして、そこからフォスターまで船に乗せれば、陸を行くよりずっと早く行けるのではないか?」
「なるほど。
確かにそうだな。」
「アンディさんは足を痛めている。
どこかで荷車でも借りて行こう。」
ラスターとダルシャの話がまとまり、それからは慌しく事が進められた。
都合の良いことにアンディの妻も戻っており、アンディ一家は身の回りのものだけを持って、急きたてられるように村を離れた。
ダルシャは、アンディが村の者に借りていた金を支払うことも忘れなかった。
「すみません。
何から何までお世話になって……」
小さな子供達と一緒に荷車に乗せられたアンディが、背中越しにフレイザーに声をかける。
「いえ…大丈夫ですよ。
乗り心地は良くないかもしれませんが、辛抱して下さいね。」
「乗り心地だなんてそんな……
本当に申し訳ありません。」
恐縮するアンディのすぐ傍では子供達が初めての旅に顔を綻ばせていた。
巫女は好きな人とは結ばれないっていうのは……そういうことだったのね……」
部屋の中の静寂を破ったのはセリナのか細い声だった。
「そんな酷い……」
「……わし達は言ってみれば巫女に新しい命を与えるために生かされているようなもんなんだ。
残念ながらわしはそんな機会にも恵まれずおめおめとここまで生き延びてしまった。
だが、わしには息子がいる。
わしの代わりにその息子が……」
「そんな勝手なこと…!
あんたは良くても息子はどうなんだ!?
本当にそれで良いって思ってるのか?」
老人は悲しげな瞳でラスターの顔をじっとみつめた。
「おまえさんには理解出来ないかもしれないが、わしらはその運命を受け入れている。
それは息子も同じことだ。
わしらはこうやってずっと昔から巫女を護って来たんだ。
こうすることがわしらの使命なのだからな……」
その言葉を聞いた途端、セリナは顔を覆って肩を震わせた。
エリオットは、隣でセリナの肩を優しく抱き締める。
*
「……これからどうするんだ?」
「ここにいてはセリナも気が晴れないかもしれない。
港町に出発しようかと考えている。」
「イリヤの家族はどうする?」
「そうだな……おぉ、そうだ。
一緒に港町まで行けば良い。
そして、そこからフォスターまで船に乗せれば、陸を行くよりずっと早く行けるのではないか?」
「なるほど。
確かにそうだな。」
「アンディさんは足を痛めている。
どこかで荷車でも借りて行こう。」
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都合の良いことにアンディの妻も戻っており、アンディ一家は身の回りのものだけを持って、急きたてられるように村を離れた。
ダルシャは、アンディが村の者に借りていた金を支払うことも忘れなかった。
「すみません。
何から何までお世話になって……」
小さな子供達と一緒に荷車に乗せられたアンディが、背中越しにフレイザーに声をかける。
「いえ…大丈夫ですよ。
乗り心地は良くないかもしれませんが、辛抱して下さいね。」
「乗り心地だなんてそんな……
本当に申し訳ありません。」
恐縮するアンディのすぐ傍では子供達が初めての旅に顔を綻ばせていた。
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