夢の硝子玉

ポーリシアの老女

１１１

＊



 「お待ち遠様。……あら？」

お茶を運んで来たばかりのセリナが、ジャックの異変に気付いた。



 「ジャック、どうかしたの？
 顔が赤いわよ。」

 「そ、それは……こ、この部屋が暑いからだ。」

 「そんなに暑いかしら？」



ダルシャは笑いをかみ殺しながら素知らぬ顔で窓の外に視線を向け、事情のわからないせりナは首をひねりながら、三人分のお茶を煎れた。



 「あ…クッキーでも買っておけば良かったわね。」

 「そういえば、ジャック…さっきのケーキの話だは、今度はいつ売るんだ？
いや、私も買わせてもらいたいと思ってね。」

 「多分、また明日から売ると思う。
この前のが完売したから、皆すごくやる気になってるからな。
 今日は、材料がなかったらしくって出来なかったんだけど、多分、今頃必死で焼いてるんじゃないかな？」

 「そうか、それなら、いくつかとっておいてくれ。
セリナの話によると、たいそうおいしいという話じゃないか。
 差し入れに持って行こうと思ってね。」

ダルシャの差し入れ先は、ジャックにはすぐに察しがついた。
 笑顔を浮かべるダルシャを見ながら、ジャックは呆れたように小さな溜め息を吐く。



 「あぁ、確かにうまいぜ。
ばあさんが作り方を教えて、それをイリヤが作ってるんだ。
イリヤは覚えが早いってばあさんは感心してたし、イリヤはイリヤでばあさんのレシピは完璧だって言ってた。」

 「そうか…思わぬ所で彼にも仕事がみつかって良かったな。
……あ！そうだ、話は変わるが、先日少しばかり気になる話を聞いたんだ。」

 「気になる話？どんなことなの？」

ダルシャは、セリナに向かって頷く。