夢の硝子玉

ポーリシアの老女

８３

＊



 「おはよう。」

 「あ……お、おはよう…す、すぐに朝食の準備をするから……」



エリオットが起きた時には、すでにサンドラは居間にいた。
いつもならエリオットが見に行くまで寝室から出てこないサンドラが起きて来ていたことに驚き、さらには昨夜のことがどうにも気まずくて、エリオットはサンドラからそっと視線を逸らした。



 「エリオット……昨夜はすまなかったね。」

 「う、ううん！ボクが悪いんだ！
ボク……あの……」

 「……ありがとうよ、エリオット……」

 「……え？」

サンドラが口にしたのはエリオットが思いもかけない言葉だった。
 驚いたエリオットは、顔を上げサンドラの方をみつめた。



 「あんなことを言ってくれたのは、あんたが初めてだった。
まさにあんたの言う通り……
私は、自分のことしか考えてなかった。
 自分に罰を与えると言いながら、そうすることで私は自分の心を楽にしようとしてたんだ。
……アイシャはとても優しい子だったからね。
あんたの言う通り、私のしていることを見てきっと心を痛めていたと思う……
そんなことにも気付かなかったなんて、全く、情け無いもんだね……」

 「そ、そんなことないよ。
ボク…おばあさんの気持ちもとってもよくわかるんだ。
ボクね……ボク…………魔法で人を殺しちゃったことがあるんだ。
そのことを考えたら、本当に苦しくて……衝動的に死にたくなっちゃうこともよくあるんだ。
だけど……そんなことをしたら、今度はボクの仲間達が苦しむ事になる。
ボクのことでみんなにそんな迷惑はかけられない。
……だからね……、死にたくなっても絶対に死ななくて……明るい顔して、あんなことなんて忘れたふりして元気に生きることがボクの出来る償いじゃないかって……いつの間にかそんな風に思うようになったんだ。」

 「エリオット……あんた、そんな辛い悩みを抱えていたのかい……」

サンドラは、エリオットをじっとみつめ囁くような声でそう言った。



 「ボクもいつ罪の意識に押し潰されるかわからない。
とても辛いよ……だけど、ボクが犯した罪だから、ボクは逃げることは出来ないんだ……」

 「エリオット……どうか、聞かせておくれ！
あんたがそんなことをしてしまった原因を…」

 瞳を潤ませ、エリオットに懇願するサンドラに、エリオットは唇を噛み締めながら頷いた。