夢の硝子玉

ポーリシアの老女

８２

「そんなの……良くないと思う。」

 俯いたまま、エリオットが発した小さな声に、サンドラは驚いたような顔を向けた。



 「なんだって？」

 「だから……そんなの良くないと思うんだ。
そんなこと、償いになんかならないよ。」

エリオットの言葉に、サンドラの表情は俄かに強張った。



 「あんたみたいな小娘に説教されたくないね。
 私がいくつだと思ってるんだい！」

 「そんな年になってもわかってないから、言ってるんだよ！
おばあさん、そんなことしててアイシャさんが本当に喜んでると思うの？」

 二人の会話はだんだんと感情的なものに変わっていった。



 「放っといておくれ！
 私は罰を受けなきゃならないんだ！」

 「おばあさんは自分のことばっかりじゃないか！
アイシャさんの気持ちを考えたことはないの！？
……おばあさんがアイシャさんを愛してたと同じくらい、アイシャさんもおばあさんのことを愛してたと思うんだ。
その大好きなお母さんが、自分のために辛い想いをしてると思ったら……それでなくても、アイシャさんは自分が死んでおばあさん達を悲しませてしまったことをすごく後悔してると思うんだ。」

 「もう、やめておくれ！」

サンドラはヒステリックに叫び、両手で耳を塞いだ。



 「やめないよ！
おばあさん、いつまでアイシャさんを苦しめるつもりなの？
そんなんじゃ、アイシャさんは天国でもきっと泣いてばかりだよ。
そんなことはもうやめてって、きっと今でも泣いてるよ！」

エリオットの言葉に、とうとうサンドラは泣き出した。
 感情がたかぶったエリオットもそれに釣られるように泣き出し、部屋の中には二人の嗚咽が響き渡る。