夢の硝子玉

ポーリシアの老女

７６

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 「心配かけてすまなかったね……」

ハンカチで顔を拭い、サンドラは照れ臭そうに小さな声で呟いた。



 「おばあさん……大丈夫？」

 「あぁ……もう大丈夫だよ。」

サンドラの顔に浮かんだ笑みを見て、エリオットは同じように微笑み頷いた。



 「おばあさん……何か、悲しいことでも思い出したの？」

 「そうだね。
 久し振りに飲んだから酔っちまったのかもしれないね。
……エリオット、とてもつまらない話だけど…私の話を聞いてくれるかい？」

エリオットは、サンドラの手を握りゆっくりと頷いた。

 「うん、聞かせて。」



 「実はね……
私には、娘がいたんだ。
 私は、特別大恋愛をしたというわけでもなく、ただすすめられるままに嫁いだんだけど、出来た娘はとても可愛くてね…
娘が生まれてからは夫との仲も今までよりずっと良いものになってね…
いつの間にか、娘のおかげで笑い声が絶えない家になってたんだよ。」

サンドラは幸せだった頃を思い出すかのように、どこかうっとりとした口調で話す。



 「……やがて、娘が１８になった頃、結婚したいと言い出した。
 相手は名門貴族の一人息子だった。
 夫も一応貴族だったけど、それとは比べものにならないくらいの名門でね。
 格では釣り合わないかもしれないが、うちの娘は器量も良かったし、頭も良い、思いやりのある心の優しい子だったから、私は引け目なんて少しも感じちゃいなかったよ。
 娘が嫁いでしまうのは寂しかったけど、嫁ぎ先はそう遠い所でもなかったし、会いたいと思えばいつだって会いに行ける場所だ。
それに……アイシャの幸せが一番重要なことだからね……
その頃の私達は、娘の幸せな未来を信じてたよ。」

そこまで話した所で、サンドラの顔に急に暗い影が差した。