夢の硝子玉

ポーリシアの老女

５８

「ご、ごめん……俺……」

 決まり悪そうな顔で、ジャックはそう言って俯いた。



 「……気にすんな。
あぁ、それにしても今日は久し振りに歩いたからちょっと疲れたな。
あ…それとも、腹がいっぱいになったせいかな？なんだか、俺、眠くなって来たよ。
ジャック……おまえも早く寝ろよ。
 疲れただろ？」

 「お、俺は…あの……」



ゆっくりと背中を向けたフレイザーに、ジャックは話すきっかけを失った。



 （……やっぱり今日はやめとくか…
いくらなんでも、エリオットは明日にはまだ戻って来ないよな。
うん……明日話すことにしよう……）



 「おやすみ、フレイザー。」

 「……おやすみ。」



ジャックはランプの火を消し、ベッドに身体を横たえた。



 ＊



 「ジャック…部屋にいても退屈だし…ちょっと、散歩にでも行くか。」

 「それは良いけど…あんた、足は大丈夫なのか？」

 「何も遠くまで行くんじゃないんだ。
 町の中をぶらっとするだけだからさ。
さ、行こう！」



 二人は部屋を出て、町の中をゆっくりと散策した。
これといって目を引くものもなければ、さほど広くもないその町では町はずれの沼地くらいしか行く場所はなかった。

 二人は、良い風の吹く沼のほとりに腰を降ろした。



 「エリオットの奴…頑張ってるかな？」

 沼の向こう側の家を眺め、フレイザーがぽつりと呟いた。



 「……だろうね。
あそこに行って、今まで一週間続いた者はいないって話だから、相当こき使われてるよ、きっと。
 気の毒にな…」

 「じゃあ、エリオットが何日もつか賭けでもするか？」

 「よせよ…可哀相だろ。
エリオットは真面目に頑張ってるんだから。」

ジャックにたしなめられ、フレイザーは照れ臭そうに頭を掻いた。