夢の硝子玉

ポーリシアの老女

４５

＊



 「じゃあ…行ってくるね。」

エリオットは俯いたまま見送りの仲間と視線を合わせることもなく、今にも消え入りそうな声で呟いた。



 「エリオット……なんて顔してるんだ。
 心配ないって。
もしも、こりゃあだめだって思ったらすぐに帰ってくりゃ良いんだ。
おまえは、魔法が使えるんだからこんな沼くらい一っ飛びだろ？」

 「……そうはいかないよ。
じゃあ……」



エリオットは、皆に向かって手を振ることもなく、黙って小舟に乗り込んだ。



 「……あいつ……やけに沈んでるなぁ……」

 舟が陸から離れて行っても、一度も振り向きもしないエリオットの後ろ姿をみつめながら、フレイザーがぽつりと呟く。



 「エリオットはまだ心の準備が出来てなかったのよ。
 私もそうだけど、間に入ってくれる人があらかじめサンドラさんと話をして、それから決まるものだと思ってたのよね。
だけど、いきなり今日からでしょ？」

 「まぁな…それには俺も驚いたけど、でも、行くつもりはあったんだろ？
それに、双子石の情報を得るためにほんの少し辛抱すりゃあ良いだけじゃないか。」

 「あのねぇ…エリオットは真面目だし、責任感の強い子だから…
あなたみたいになんでも軽くみちゃいないのよ。」

セリナは、フレイザーに向き直り、腕を組んで難しい顔で抗議した。



 「酷いな…
それじゃあまるで、俺がちゃらんぽらんみたいじゃないか……」

 「あら！？違うの？」

 「セリナ……」

フレイザーは、眉を下げ、情け無い声でセリナの名前を口にする。



 「……とにかく、しばらく俺達にはやれることはないな。
エリオットの無事を祈って、待つことしか出来ない。」

 「そうね……
さて、と……私もやっぱりフォスターで待つ事にするわ。
ここは、あなたとフレイザーに任せる。」

 「……え！？で、でも……」

 「この町は何もないし、暇をもてあましそうだから。
それに、エリオットのことはあなた方に頼んでおけば大丈夫だしね。
よろしく頼んだわよ！」

セリナは、そう言ってジャックの肩を優しく叩いた。