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ポーリシアの老女
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「フ…フレイザー…あの…」
「うわぁ!こんなにでかい沼だったんだな。
あ、あれが婆さんの家だな?
だけど、どうやって行くんだ?
あ…そっか、あそこから回っていくんだな…」
フレイザーはジャックの発した小さな声には気付かずに、あたりの地形を見渡しては独り言を呟く。
「なぁ、ジャック…」
「な、なんだ!?」
不意に振り返ったフレイザーに、ジャックは慌てて言葉を返した。
「酒場に行ってみないか?
もう少しあの婆さんのことを調べといた方が良いだろう?」
「あ…あぁ、そうだな…
じゃあ、行こうか。」
ジャックはフレイザーより先に立ち、酒場へ向かって歩き始めた。
「もしも、お手伝いにいくとしたら、誰が行くことになるんだろう?
セリナとエリオットだったら、どっちが良いと思う?」
フレイザーが早足でジャックの隣に回りこみ、唐突に質問を投げかけた。
「そうだなぁ…やっぱり、エリオットの方が良いんじゃないか?」
「どうしてだ?」
「だって、婆さんは魔法使いだってことだから、そういう点でもエリオットの方が好まれそうだ。
それにいざという時、エリオットならその窮地を魔法でなんとか出来るだろう?」
「おいおい、相手は婆さんだぞ。
いざという時なんてないとは思うけど…でも、自分が魔法使いだから、魔法使いのエリオットを好むってことは確かにありそうだな。」
フレイザーはそう言いながら、何度も頷く。
「……そんなことより、フレイザー…
足は大丈夫なのか?
休まなくて大丈夫か?」
「何言ってんだ。
このくらい、なんでもないって言ってるだろ?
なんなら、今、走ってみせようか?」
「やめろよ、傷口が開いたらどうするんだ。」
「そんなこと、たいしたことじゃない。
ジャック……身体の傷なんてすぐに治る。
それよりも治りにくいのは、こっちの方だ。
そう言って、フレイザーは親指で心臓のあたりを指し示した。
「傷を治すには、まずはそこに傷があることを認めることから始めなきゃな…
隠したまんまじゃ、一生、直す事が出来ないと思うんだ。」
「……つまらないこと言ってないで、早く行くぞ。」
フレイザーの言わんとすることは理解しながらも、ジャックはフレイザーから視線を逸らしたまま、真っ直ぐ前を向いて歩き続ける。
「あぁ、わかった、わかった。」
(……でも、俺は必ずおまえの傷を治してみせる。
いつの日かきっと……!)
フレイザーは、心の中で強く自分自身に言い聞かせた。
「うわぁ!こんなにでかい沼だったんだな。
あ、あれが婆さんの家だな?
だけど、どうやって行くんだ?
あ…そっか、あそこから回っていくんだな…」
フレイザーはジャックの発した小さな声には気付かずに、あたりの地形を見渡しては独り言を呟く。
「なぁ、ジャック…」
「な、なんだ!?」
不意に振り返ったフレイザーに、ジャックは慌てて言葉を返した。
「酒場に行ってみないか?
もう少しあの婆さんのことを調べといた方が良いだろう?」
「あ…あぁ、そうだな…
じゃあ、行こうか。」
ジャックはフレイザーより先に立ち、酒場へ向かって歩き始めた。
「もしも、お手伝いにいくとしたら、誰が行くことになるんだろう?
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「そうだなぁ…やっぱり、エリオットの方が良いんじゃないか?」
「どうしてだ?」
「だって、婆さんは魔法使いだってことだから、そういう点でもエリオットの方が好まれそうだ。
それにいざという時、エリオットならその窮地を魔法でなんとか出来るだろう?」
「おいおい、相手は婆さんだぞ。
いざという時なんてないとは思うけど…でも、自分が魔法使いだから、魔法使いのエリオットを好むってことは確かにありそうだな。」
フレイザーはそう言いながら、何度も頷く。
「……そんなことより、フレイザー…
足は大丈夫なのか?
休まなくて大丈夫か?」
「何言ってんだ。
このくらい、なんでもないって言ってるだろ?
なんなら、今、走ってみせようか?」
「やめろよ、傷口が開いたらどうするんだ。」
「そんなこと、たいしたことじゃない。
ジャック……身体の傷なんてすぐに治る。
それよりも治りにくいのは、こっちの方だ。
そう言って、フレイザーは親指で心臓のあたりを指し示した。
「傷を治すには、まずはそこに傷があることを認めることから始めなきゃな…
隠したまんまじゃ、一生、直す事が出来ないと思うんだ。」
「……つまらないこと言ってないで、早く行くぞ。」
フレイザーの言わんとすることは理解しながらも、ジャックはフレイザーから視線を逸らしたまま、真っ直ぐ前を向いて歩き続ける。
「あぁ、わかった、わかった。」
(……でも、俺は必ずおまえの傷を治してみせる。
いつの日かきっと……!)
フレイザーは、心の中で強く自分自身に言い聞かせた。
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