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ポーリシアの老女
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「……全く、君って人は……」
困ったような笑みを浮かべたダルシャは、そう言うとワイングラスを傾けた。
「そんなこと言ったって…
俺にはどうしてもわからないんだ。
自分の気持ちなのに……俺は、あいつのことをどう思ってるのかわからない…」
「だったら、いっそ……」
「つきあってみれば良いって言うんだろ?
エリオットにも言われた。
……だけど、ダルシャ……俺とエリオットは、その、記憶をなくしてるんだ。
もしも、俺がジャックとつきあうようになって、本当にあいつのことを愛するようになったとして…
そんな時に、記憶が戻って……万一俺に妻や子がいたらどうなる?
ジャックの気持ちを傷付けることにならないか?」
「なるほど、そんなことを考えていたのか……
そりゃあ、もしもそんなことがあれば…そして、君がジャックではなく妻子を選べばジャックは間違いなく傷付くだろうな。」
「やっぱり、そうだよな……」
フレイザーは、ワインを一気にあおりそのまま肩を落として俯いた。
「……だからなんだと言うんだ。
君はすでに彼女を傷付けてるじゃないか…」
「……え?」
思い掛けないダルシャの言葉に、フレイザーは間の抜けた顔を上げた。
「……自覚がないのか?
君は確かにはっきりと拒絶したわけではないが、ああいう言葉を聞けば、ほとんどの者なら脈がないと実感する筈だ。
はっきりと言えないから、あんな風に言ったんだと思うだろうな。
生まれて初めて好きになった男への秘めたる恋心…きっと、ジャックは誰にも言わないつもりだったと思う。
それが、バレてしまった。
当然、君がその気持ちを受け入れてくれるとは考えていなかっただろうが、それでもやはり寂しかったと思う。
……ジャックは早く忘れてしまいたいんだ。
君のことを好きだったこともすべてなかったことにしたいんだ。
だからこそ、男になる決心をした。
男になれば、君のことをどんなに好きでもどうにもならない。
つまり、理由付けだな。
男になれば、同性だから、フレイザーが自分のことを好きになってくれないのは当然のことなんだっていう理由が手に入る。
……ジャックはそうやって、無理に君への想いを懸命に断ち切ろうとしているのだと思う。
それがどれほどの大きな傷か、君にはわからないか?」
「そんな……」
忌まわしい過去を封じこめるためだけではなく、自分への愛情を断ちきるためだと言われ、フレイザーの心は酷く動揺した。
しかも、常々、守ってやりたいと考えていたジャックを自分自身が傷付けていたことに気付き、フレイザーは激しく打ちのめされた。
「……全く、君って人は……」
困ったような笑みを浮かべたダルシャは、そう言うとワイングラスを傾けた。
「そんなこと言ったって…
俺にはどうしてもわからないんだ。
自分の気持ちなのに……俺は、あいつのことをどう思ってるのかわからない…」
「だったら、いっそ……」
「つきあってみれば良いって言うんだろ?
エリオットにも言われた。
……だけど、ダルシャ……俺とエリオットは、その、記憶をなくしてるんだ。
もしも、俺がジャックとつきあうようになって、本当にあいつのことを愛するようになったとして…
そんな時に、記憶が戻って……万一俺に妻や子がいたらどうなる?
ジャックの気持ちを傷付けることにならないか?」
「なるほど、そんなことを考えていたのか……
そりゃあ、もしもそんなことがあれば…そして、君がジャックではなく妻子を選べばジャックは間違いなく傷付くだろうな。」
「やっぱり、そうだよな……」
フレイザーは、ワインを一気にあおりそのまま肩を落として俯いた。
「……だからなんだと言うんだ。
君はすでに彼女を傷付けてるじゃないか…」
「……え?」
思い掛けないダルシャの言葉に、フレイザーは間の抜けた顔を上げた。
「……自覚がないのか?
君は確かにはっきりと拒絶したわけではないが、ああいう言葉を聞けば、ほとんどの者なら脈がないと実感する筈だ。
はっきりと言えないから、あんな風に言ったんだと思うだろうな。
生まれて初めて好きになった男への秘めたる恋心…きっと、ジャックは誰にも言わないつもりだったと思う。
それが、バレてしまった。
当然、君がその気持ちを受け入れてくれるとは考えていなかっただろうが、それでもやはり寂しかったと思う。
……ジャックは早く忘れてしまいたいんだ。
君のことを好きだったこともすべてなかったことにしたいんだ。
だからこそ、男になる決心をした。
男になれば、君のことをどんなに好きでもどうにもならない。
つまり、理由付けだな。
男になれば、同性だから、フレイザーが自分のことを好きになってくれないのは当然のことなんだっていう理由が手に入る。
……ジャックはそうやって、無理に君への想いを懸命に断ち切ろうとしているのだと思う。
それがどれほどの大きな傷か、君にはわからないか?」
「そんな……」
忌まわしい過去を封じこめるためだけではなく、自分への愛情を断ちきるためだと言われ、フレイザーの心は酷く動揺した。
しかも、常々、守ってやりたいと考えていたジャックを自分自身が傷付けていたことに気付き、フレイザーは激しく打ちのめされた。
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