夢の硝子玉

波に揺られて

６

「私……願い石を探し出して、それで魔力を身に付けて母様を救おうと考えたの。
でも、エルフの里に辿りついて…あ、エルフはね、人間を食べるなんて言われてるから誰も近付かないけど、本当はとても優しい人達なのよ。
 私、あそこに行って初めて心から安全だと思えたわ。
ここにいればもう誰にも狙われることもなく安全に暮らせるとわかったら、今度は外へ出るのが怖くなった…
母様が辛い目にあってることはわかっていながら、私には助けに行く勇気がなかったの。
どうせ願い石なんてみつかるわけがない…私にそんな大それたことが出来るわけがない…
そう思うとどうしてもエルフの里を出ることが出来なかった。
 私は、そんな風に自分のことしか考えない酷い娘なのよ。」

 「……そうだったのか…
セリナはいつも明るいから、そんなことがあったなんて少しも気付かなかった。
……でも、それは仕方ないことだと思う。
 一人で願い石をみつけるなんてとても無理だっただろうし、そんな危険な奴らに立ち向かっても歯が立つ筈もない。
セリナと同じような立場になれば、誰だってきっと同じことをすると思うよ。
セリナは悪くなんかないよ。」

 「ありがとう、ジャック…
でも…私は自分自身が許せない。
 今でもとても恥ずかしいし、後悔もしてる…きっと、一生忘れられないわ。
いえ、忘れちゃいけないんだわ…」

セリナはハンカチで溢れる涙を拭いながら、静かな声で呟いた。



 「俺は…自分が後悔してるのかどうかもわからない。
あの時はそうするしかないと思ってたし…今更どんなに悔やんでも過去は変えられない…
ただ……俺は誰にも愛される資格がないことだけは受け止めてる。」

 「ジャック…私は、信じてる…フレイザーはそんなことにこだわるような人じゃ…」

 「セリナ…本当に…俺はだめなんだ…
俺は、汚れてる…なにもかも穢れてるんだ…！」

 「ジャック……！」

 急に駆け出したジャックに片手を伸ばし…だが、なぜだか足を踏み出せなかったセリナは小さくなっていくジャックの後ろ姿をみつめるばかりだった。