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波に揺られて
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*
「ジャック…!」
不意に後ろからかけられた声に、ジャックはびくんと背中を波打たせた。
「…セリナ…」
セリナは、ジャックの視線の先のものに気付き、小さく笑う。
「……確かに、あの二人…仲は良いわよね。
気になる?」
「お、俺は何も気になんて…」
ジャックは、そう言うと急に歩き出した。
「ジャック、待って!」
セリナは足を速め、ジャックの後を追った。
*
「そ、そんなことがあったの!?」
セリナはジャックをフレイザー達の目につかない場所に引っ張り、ディーラスへ着くまでの話を聞き出した。
最初はあまり気乗りしない様子だったジャックも、セリナの話しぶりについつい乗せられ、自分をかばってフレイザーが怪我をしたことや、女だということがバレてしまったことを話した。
「皆に心配かけるから怪我の事は言うなって、フレイザーが…
ダルシャは少し知ってるけど、なぜ怪我をしたかやどれほどの傷なのかは言ってない。」
「そうだったの…
でも、良かったじゃない。
フレイザーに命を賭けて守ってもらえるなんて、女としてとても幸せなことだわ。」
「馬鹿なことを言うな!
フレイザーは、俺のことを女としてなんて見ちゃいない。
今まで通り、弟みたいな気持ちで考えてくれてるんだ。」
「そんなことないと思うわ。
フレイザーはちょっと鈍い所のある人だから、もしかしたら自分でも気付いてないのかもしれないけれど、あなたが女の子だと知って男としての本能みたいなものが目覚めたんだと思うわ。
女性を守らなくてはいけないって本能が…
それに、きっとあなたのことも女の子として意識し始めてると思うのよ。
守りたいという気持ちからそのうち好きだって感情に…」
「そんなことはありえない!!」
急に大きな声を上げたジャックに、セリナは驚き目を大きく見開いた。
「……ごめん…
でも、そんなことは絶対にないんだ…」
ジャックは静かにそう言って、顔を伏せる。
「どうして?あなた、いつもどうしてそんなことばかり言うの?
あなたは他の人に劣ることなんて何も…」
「あるんだ!
俺は…フレイザーに今まで誰にも話したことのなかった過去の話をした。
あんな話を聞いて、俺のことを好きになってくれる人間なんていやしない!」
「……フレイザーは、過ぎ去ったことにこだわるような人じゃないと思う。
だって、私のことだって…」
「俺は…俺は、汚れてるんだ!
だって、俺は……」
セリナの顔に暗い影が差したことにもまるで気付かない様子で、堰を切ったようにジャックの昔話が始まった。
本来ならば、話すことを躊躇われる筈の話に感情が勢いを付け、ジャックは息が疲れる程、辛い話を一気に話し続けた。
「ジャック…!」
不意に後ろからかけられた声に、ジャックはびくんと背中を波打たせた。
「…セリナ…」
セリナは、ジャックの視線の先のものに気付き、小さく笑う。
「……確かに、あの二人…仲は良いわよね。
気になる?」
「お、俺は何も気になんて…」
ジャックは、そう言うと急に歩き出した。
「ジャック、待って!」
セリナは足を速め、ジャックの後を追った。
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「そ、そんなことがあったの!?」
セリナはジャックをフレイザー達の目につかない場所に引っ張り、ディーラスへ着くまでの話を聞き出した。
最初はあまり気乗りしない様子だったジャックも、セリナの話しぶりについつい乗せられ、自分をかばってフレイザーが怪我をしたことや、女だということがバレてしまったことを話した。
「皆に心配かけるから怪我の事は言うなって、フレイザーが…
ダルシャは少し知ってるけど、なぜ怪我をしたかやどれほどの傷なのかは言ってない。」
「そうだったの…
でも、良かったじゃない。
フレイザーに命を賭けて守ってもらえるなんて、女としてとても幸せなことだわ。」
「馬鹿なことを言うな!
フレイザーは、俺のことを女としてなんて見ちゃいない。
今まで通り、弟みたいな気持ちで考えてくれてるんだ。」
「そんなことないと思うわ。
フレイザーはちょっと鈍い所のある人だから、もしかしたら自分でも気付いてないのかもしれないけれど、あなたが女の子だと知って男としての本能みたいなものが目覚めたんだと思うわ。
女性を守らなくてはいけないって本能が…
それに、きっとあなたのことも女の子として意識し始めてると思うのよ。
守りたいという気持ちからそのうち好きだって感情に…」
「そんなことはありえない!!」
急に大きな声を上げたジャックに、セリナは驚き目を大きく見開いた。
「……ごめん…
でも、そんなことは絶対にないんだ…」
ジャックは静かにそう言って、顔を伏せる。
「どうして?あなた、いつもどうしてそんなことばかり言うの?
あなたは他の人に劣ることなんて何も…」
「あるんだ!
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「……フレイザーは、過ぎ去ったことにこだわるような人じゃないと思う。
だって、私のことだって…」
「俺は…俺は、汚れてるんだ!
だって、俺は……」
セリナの顔に暗い影が差したことにもまるで気付かない様子で、堰を切ったようにジャックの昔話が始まった。
本来ならば、話すことを躊躇われる筈の話に感情が勢いを付け、ジャックは息が疲れる程、辛い話を一気に話し続けた。
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