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ディーラスを目指して
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「……臭い…」
気持ち良さそうにお互いもたれあいながら眠るダルシャとブライアンを見て、ジャックは不快感を顕わに眉をひそめる。
「ジャック、もう少しだ。
あとちょっとでディーラスだから、そう怖い顔すんなって…」
「だって……
臭いじゃないか!」
ジャックは窓に顔を近づけ、外の新鮮な空気を取り込むように手で仰ぐ。
「ま、二時間程で着くらしいから我慢しろよ。
なんだったらおまえも眠ってたらどうだ?
着いたら俺が起こすから。」
「良いよ、そんなに眠くないし。
……この二人の気が合う理由がよくわかったよ。
本当に二人共酒と女には目がないんだから…」
「良いじゃないか、別に俺達には何の関係も…」
「馬車の中がこんなに臭いじゃないか!」
噛み付くようなジャックの反論を受け、フレイザーはただ苦い笑みを浮かべるばかりだった。
ヘイレンを出た馬車はその日の夕方、ディーラスにほど近い町に停まった。
馬の体力を考え、その晩はそこで一泊することになったのだが、ダルシャとブライアンは夕食の帰りに声をかけられた女達に着いて行ったまま朝まで戻らず、そのことでジャックはすっかり機嫌を悪くしていた。
「フレイザー、ディーラスに着いたら気を抜くなよ。」
ジャックはブライアンの方を顎先で示しながら、フレイザーに意地悪くそう言った。
「……はいはい、わかったよ。十分注意しとく。
だから、そうカリカリすんな。
……それと…ありがとうな。」
「なんだよ、藪から棒に…」
「おまえが馬車のこと言ってくれたお陰で、楽にディーラスに行けることが出来たからな。」
「そ、そんなこと…そもそも、あんたのその傷は俺のせいで…」
ジャックは急に俯き、その声はさっきまでとは打って変わりか細く歯切れの悪いものになった。
「その話ならもう良いって。
そんなことより、なぁ、ジャック…次の願い石は誰が使うんだろう?」
「誰でも良いけど…そうだ、あんたが使わせてもらえば良いじゃないか。
昔のことを思い出したいんだろう?」
「お、俺は最後で良いよ。
だったら、ダルシャかラスターが使えば良いな。」
「エリオットは?」
「エリオットも俺と同じで記憶を取り戻したいだけなんだ。
俺達は一緒にいたんだし、どっちかが思い出せばそれでもう片方のことも思い出すだろうから、俺達は二人で一つで良いんだ。」
「ふ~ん…二人で一つ、ねぇ…」
ジャックの声に、再び刺々しいものが加わった。
「……臭い…」
気持ち良さそうにお互いもたれあいながら眠るダルシャとブライアンを見て、ジャックは不快感を顕わに眉をひそめる。
「ジャック、もう少しだ。
あとちょっとでディーラスだから、そう怖い顔すんなって…」
「だって……
臭いじゃないか!」
ジャックは窓に顔を近づけ、外の新鮮な空気を取り込むように手で仰ぐ。
「ま、二時間程で着くらしいから我慢しろよ。
なんだったらおまえも眠ってたらどうだ?
着いたら俺が起こすから。」
「良いよ、そんなに眠くないし。
……この二人の気が合う理由がよくわかったよ。
本当に二人共酒と女には目がないんだから…」
「良いじゃないか、別に俺達には何の関係も…」
「馬車の中がこんなに臭いじゃないか!」
噛み付くようなジャックの反論を受け、フレイザーはただ苦い笑みを浮かべるばかりだった。
ヘイレンを出た馬車はその日の夕方、ディーラスにほど近い町に停まった。
馬の体力を考え、その晩はそこで一泊することになったのだが、ダルシャとブライアンは夕食の帰りに声をかけられた女達に着いて行ったまま朝まで戻らず、そのことでジャックはすっかり機嫌を悪くしていた。
「フレイザー、ディーラスに着いたら気を抜くなよ。」
ジャックはブライアンの方を顎先で示しながら、フレイザーに意地悪くそう言った。
「……はいはい、わかったよ。十分注意しとく。
だから、そうカリカリすんな。
……それと…ありがとうな。」
「なんだよ、藪から棒に…」
「おまえが馬車のこと言ってくれたお陰で、楽にディーラスに行けることが出来たからな。」
「そ、そんなこと…そもそも、あんたのその傷は俺のせいで…」
ジャックは急に俯き、その声はさっきまでとは打って変わりか細く歯切れの悪いものになった。
「その話ならもう良いって。
そんなことより、なぁ、ジャック…次の願い石は誰が使うんだろう?」
「誰でも良いけど…そうだ、あんたが使わせてもらえば良いじゃないか。
昔のことを思い出したいんだろう?」
「お、俺は最後で良いよ。
だったら、ダルシャかラスターが使えば良いな。」
「エリオットは?」
「エリオットも俺と同じで記憶を取り戻したいだけなんだ。
俺達は一緒にいたんだし、どっちかが思い出せばそれでもう片方のことも思い出すだろうから、俺達は二人で一つで良いんだ。」
「ふ~ん…二人で一つ、ねぇ…」
ジャックの声に、再び刺々しいものが加わった。
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