夢の硝子玉

ディーラスを目指して

５４

＊



 「ブライアン、すまないな…
急なことに付き合わせてしまって…」

 「いえ…僕は全然構いませんよ。」

ダルシャとブライアンは、すでに暗くなった街道を足早に歩いていた。



 「ところで、ブライアン…
さっきの…ジャックと握手をした時のことだが…
 ……何か感じたのか？」

 「あ…あぁ…気付かれてましたか…」



 二人の軽やかな足音が、夜の静寂に響き渡る。



 「……それで……何か？
……君はあの子に何か興味を持ったのか？」

 「いえ…そういうわけではありません。
 以前お話した通り、私は握手だけでは相手の心の中を見抜く事はありません。
 相手のことを視るという気持ちになってからでないと…」

 「そうでないと誰かに触れただけで、知りたくもないことをどんどん受けとってしまうから…
それで、君は普段のちょっとした接触では、心の中に侵入しないように訓練したということだったな。」

ダルシャは先日ブライアンに聞いた話を思い出しながら口にした。



 「おっしゃる通りです。
ですから、握手しただけで相手のことを感じることはまずないのですが、あの子に手が触れた時、僕は撥ね付けられるような強い痛みを感じたのです。」

 「それはどういうことなんだ？」

 「……これは僕の推測なのですが…
彼は、誰にも知られたくない深い悩みを抱えているのではないでしょうか？
それに、誰にも心を開いていない…」

 「……なるほど…
そういうことなら納得出来る。
 君の推測は当たっていると思うよ。
ただ……」

 「ただ……？」

 「……ジャックにも心を開いている人はきっといる。
……ただ一人だけ…」

 「一人だけ…ですか？」

ブライアンの問いかけに、ダルシャは何も答えない。
ブライアンもあえてもう一度聞く事はしなかった。



 「ブライアン、今夜はミッシェルの店に行くか…
まだディーラスに行ってないと知ったら、彼女、驚くだろうな…」

 「え？…えぇ…そうですね。」



ダルシャには、遠くに見える町の灯りがまるで手招きをしているように映った。



 「ようし！
 急ごうか、ブライアン！」