夢の硝子玉

ルカ(聖夜月ルカ)

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ディーラスを目指して

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「フレイザー…
俺、船賃が出来てからどうしたと思う?」

ジャックはフレイザーの訊ねたことには答えず、逆に質問を返した。



 「え……?どうって……
船に乗ったんだろ?」

 「そのつもりだった…
だけど……直前で俺の気持ちは変わったんだ。
スエルシアを離れると思ったら急に寂しくて、ものすごく心細い気持ちになった。
……おかしいよな。
いやなことを忘れたくて…すべてやり直したくて…それなのに、いざ離れるとなったら決心が鈍るなんて……」

 「いや、おかしくなんてないさ。
こんなこと言ったらいい加減なことを言ってるように聞こえるかもしれないけど…その気持ち、俺にもなんとなくわかるような気はするよ。」

 「ありがとう…フレイザー…」

ジャックはそう言って、俯いたまま小さく笑う。



 「俺はあいつらのことを訊ねて回った。
 願い石をみつけたらすぐにあいつらの所へ向かえるように調べておこうって…俺はスエルシアを離れる時を引き伸ばしたくて、きっとそんなことを言い訳にしてたんだと思う。
 奴らはあの町の者じゃなかったんだ。
 噂を頼りにいくつもの町を探し回ったが、その噂もついには途絶え、俺は手がかりを失った。
 行く当てを失った俺は、それでもまだ決心が着かずに、今度は山に戻った。
そして、母さんやおじいちゃんの墓の前でいろんなことを洗いざらい話して聞かせた。
 俺の身に起こったこと…願い石を探しに行くと決めたこと…そして、最低のことをして金を稼いだ事を謝って、そんなことをしてるうちにようやく気持ちの整理が着いた気がした。
 気が付いたら二年近い日が経ってたよ…俺は、それほどの遠回りをしてやっと港に向かったんだ。」

 「そうだったのか…
じゃ、ジャックがすぐに船に乗ってたら、俺達は出会うことはなかったんだな。」

 「その通りさ。
……今でも俺すごく不思議に思うんだ。
 俺はあの時、港で船を待ってる時に突然声をかけられた。
それは小柄なおばあさんで、そのおばあさんは言ったんだ。
 銀色の髪の人間があんたの願いを叶えてくれる…そして……」

ジャックは話の途中で、何かを思い出したかのように慌てて口をつぐんだ。
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