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四つ目の大陸
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*
「私としたことが…こんな大切なことを忘れていたとは…
ありがとう!セリナ!よく教えてくれた!」
ダルシャは、パーティがすんだ後も一人で飲んでいたらしく、赤い顔をしてはいたが、はっきりとした口調でそう言った。
「実を言うと私も忘れてたの。
今さっき、ジャックに聞いて、やっと思い出したのよ。
そんなことより、ダルシャ。
ちょっと提案があるんだけど……」
*
「な、なんだって!」
次の日、朝食の席でダルシャの話を聞いた四人は、一様に驚きを顕わにした。
それは、この町にフレイザーとジャックを残し、他の四人ですぐにディーラスに向けて出発するというものだった。
「そういうことだから、早く食べてしまってくれ。
馬車が来る昼までに隣町に着かねばならん。
さぁ、急いでくれ。」
「そ、そんな急な……」
「昨夜、ダルシャと話あって決めたのよ。
せっかくのチャンスを不意にしちゃもったいないでしょう?」
「どうせ、そいつはディーラスになんて行ってないと思うけどな。
今頃は女から騙し取った金を遣ってどこかの町で楽しくやってるさ、きっと。」
「それも行ってみなくちゃわからないことよ。
さ、二人共、ブツブツ言ってないで早く食べて!」
セリナの厳しい口調に、エリオットとラスターは仕方なく手を早めながら料理を口に押し込んだ。
*
「それでは、君達とはヘイレンで合流しよう。
急がず、無理せずにちゃんと医師の許可が出てから来るんだぞ。
ジャック…フレイザーのことは任せた。
よろしく頼む。」
「え…あ、あぁ…わかった。」
ジャックは差し出されたダルシャの片手をそっと握り返した。
「ジャック…これ。」
セリナはジャックの腕を取り、ジャックの華奢な手首に腕輪を巻き付ける。
麻紐のようなものに、青味がかった緑の石を編みこんだものだった。
「セリナ、これは…?」
「御守りよ。
昨夜、この石のことを思い出して作ってみたのよ。
ほら…この石…冷静になれる石なんですって。
それだけじゃないの…この石は素直になれるんですって。
……あなたにぴったりでしょう?
感情が高ぶったら、この石を見てね。
フレイザーと仲良くやるのよ。」
セリナはジャックの耳元でそう囁くと、悪戯っぽく片目を瞑って見せた。
ジャックは、ほんのりと頬を染め、黙ったままで小さく頷く。
「ねぇ…本当に二人で大丈夫?
僕も残らなくて良い?」
「大丈夫よ!
フレイザーにはジャックがついてたら心配いらないわ。
さ、急ぎましょう!」
心配そうに何度も後ろを振り返るエリオットに、フレイザーとジャックは手を振り見送った。
「私としたことが…こんな大切なことを忘れていたとは…
ありがとう!セリナ!よく教えてくれた!」
ダルシャは、パーティがすんだ後も一人で飲んでいたらしく、赤い顔をしてはいたが、はっきりとした口調でそう言った。
「実を言うと私も忘れてたの。
今さっき、ジャックに聞いて、やっと思い出したのよ。
そんなことより、ダルシャ。
ちょっと提案があるんだけど……」
*
「な、なんだって!」
次の日、朝食の席でダルシャの話を聞いた四人は、一様に驚きを顕わにした。
それは、この町にフレイザーとジャックを残し、他の四人ですぐにディーラスに向けて出発するというものだった。
「そういうことだから、早く食べてしまってくれ。
馬車が来る昼までに隣町に着かねばならん。
さぁ、急いでくれ。」
「そ、そんな急な……」
「昨夜、ダルシャと話あって決めたのよ。
せっかくのチャンスを不意にしちゃもったいないでしょう?」
「どうせ、そいつはディーラスになんて行ってないと思うけどな。
今頃は女から騙し取った金を遣ってどこかの町で楽しくやってるさ、きっと。」
「それも行ってみなくちゃわからないことよ。
さ、二人共、ブツブツ言ってないで早く食べて!」
セリナの厳しい口調に、エリオットとラスターは仕方なく手を早めながら料理を口に押し込んだ。
*
「それでは、君達とはヘイレンで合流しよう。
急がず、無理せずにちゃんと医師の許可が出てから来るんだぞ。
ジャック…フレイザーのことは任せた。
よろしく頼む。」
「え…あ、あぁ…わかった。」
ジャックは差し出されたダルシャの片手をそっと握り返した。
「ジャック…これ。」
セリナはジャックの腕を取り、ジャックの華奢な手首に腕輪を巻き付ける。
麻紐のようなものに、青味がかった緑の石を編みこんだものだった。
「セリナ、これは…?」
「御守りよ。
昨夜、この石のことを思い出して作ってみたのよ。
ほら…この石…冷静になれる石なんですって。
それだけじゃないの…この石は素直になれるんですって。
……あなたにぴったりでしょう?
感情が高ぶったら、この石を見てね。
フレイザーと仲良くやるのよ。」
セリナはジャックの耳元でそう囁くと、悪戯っぽく片目を瞑って見せた。
ジャックは、ほんのりと頬を染め、黙ったままで小さく頷く。
「ねぇ…本当に二人で大丈夫?
僕も残らなくて良い?」
「大丈夫よ!
フレイザーにはジャックがついてたら心配いらないわ。
さ、急ぎましょう!」
心配そうに何度も後ろを振り返るエリオットに、フレイザーとジャックは手を振り見送った。
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