夢の硝子玉

再会

１９

「この宿屋はね、実は私の父親の実家なのよ。
さっきも言った通り、その頃は、港に行く人達は皆ここらを通って行ってね…だから、うちのほかにも何軒か宿屋があったらしいわ。
まだ私の両親が幼い頃、この町にある大きな事件が起きてね…それからなのよ。
ここに人が立ち寄らなくなったのは…」

 「事件…？
 何があったんですか？」

 「ある日、裏山に空から星の欠片が降って来た。
それは雷のような轟音と共にやってきて、この町に大きな地響きを起こしたそうよ。
それからしばらくして、この町に今までになかったような大きな台風がやって来た。
 町は壊滅的な被害を受け、悲しいことに多くの死者も出たらしいわ。
でも、悲しんでばかりもいられない。
 町の人達は力と心を合わせ、町の復興に取り組んだ。
また以前のような…いえ、もっと活気のある良い町にしようって頑張った…
でも……」

 「うまくいかなかったんですか？」

 老婆の寂しそうな横顔を見て、セリナは心配そうな声で尋ねる。



 「……噂が流れたのよ。
あの町に落ちた星は災いをもたらす星なんだ…
あの町に行くと良くない事が起きるって……」

 「そんな噂が……」

 「噂っていうのは恐ろしいものでね…
そんな噂が立つと、必ずそれを実証するような話が湧き起こるのよ。
あの町に行ってから病気になったとか、あの町に行ってから仕事がうまくいかなかったとか…
きっとそんなものは自分の身にふりかかったいやなことに理由を付けただけのことなのにね…
せっかく町が復興したというのに、町に立ち寄る人の数はめっきりと減ってしまった…
信じられない事だけど、結局、そのことがきっかけで他所に新しい港が作られることになったのよ。
それに伴なって新しい街道も作られ、この町はどんどん寂れていったらしいわ。」

そこまで話し終えると、老婆は不意に立ち上がりやかんを火にかけた。