夢の硝子玉

それぞれの旅立ち

８６

「なんで……」

 「え…？」

 「なんで、そんないやな奴らと一緒に旅をしなきゃならないんだ？」

ジャックの険を含んだ質問に、エリオットは、思わずフレイザーに救いを求めるような視線を送る。



 「そ…それは……」

 「それはな、ダルシャがいないと路銀がないからだ！」

フレイザーの思いがけない返答に、エリオットはまじまじと彼の顔をみつめた。



 「……なんだ。
それじゃ、どっちもどっちじゃないか。
あんたも金目当てなんだったら、奴らがエリオットを見捨てて出発したっていっても仕方ないんじゃないのか？」

ジャックの言葉はさらに意地の悪いものになっていた。




 「それは……」

 本当のことが言えないもどかしさに、フレイザーは唇を噛み、言葉は途絶える。



 「……そうだね。
ジャックの言う通りだ。
 僕達も、ダルシャのお金をあてにしてるんだから、そんなこと言えないよね。
ね、フレイザー？」

フレイザーは俯いたままでじっとしていたが、やがてゆっくりと頷く。



 「……でも、他人の金をあてにしてまで、あんたらはどこに行くつもりなんだ？
 何か目的でもあるのか？」

 「そんなこと、おまえに言う必要ないだろ！？」

フレイザーのその言葉にジャックの表情が一変した。
 驚きと怒りの混じったその顔には、どこか寂しさのようなものも感じられた。



 「……そうだな。
そんなこと、俺には何の関係もないもんな！
 俺も、あんた達にたかって旅してる身だ。
 何も言える立場じゃないしな！」

 語気を荒げたジャックは立ち上がり、そのまま店を出て行った。



 「フレイザー、ジャック、怒っちゃったみたいだよ！」

 「知るもんか、あんな奴…」

 「もうっ！」

そっぽを向いたフレイザーの代わりに、エリオットがジャックの跡を追い店を飛び出した。