夢の硝子玉

それぞれの旅立ち

６３

「マーサ、外に吊るしておいた隠蔽茸を持っておいで。」

マーサはすぐに走り出し、干からびたきのこを持って戻って来た。



 「ずいぶんちっちゃくなっちゃったね。」

 「マーサ、良いか。
この隠蔽茸はとても貴重なものなんじゃ。
 魔力を持たない者には何の影響も与えんし、うまくもなんともない。
じゃが、わし達のような魔法使いにはとても素晴らしい効果をもたらすんじゃ。
 魔力を増幅したり回復したりするわけじゃ。
 今から作るのが、魔法の滋養薬じゃ。
まぁ、隠蔽茸自体、めったにみつかるもんじゃないから、作る機会はそうはないかもしれんが、作り方を覚えておいて損はない。
あ、それから、あの山に隠蔽茸が生える事は決して誰にも言うでないぞ。
 他の者に横取りされるだけではなく、欲に目がくらんだ者が山に入って魔物にやられてしまう危険性もあるかもしれんからな。」

 「滋養薬はそんなに高くで売れるの？」

 「そりゃあそうじゃ。
たいそう貴重なもんじゃからな。
 魔法使いなら皆ほしがる。」

シャルロッテの話によれば、いくら腕に覚えがあるとはいえ、アンガスが魔物の山に入れるのは護符のおかげだということで、その護符にも隠蔽茸が一部使われているということだった。



 「とにかく、隠蔽茸には様々な力があるんじゃ。
 実は、魔法の滋養薬よりずっと強力な魔法の強壮薬というものもあるんじゃが、そのレシピはごく限られた者しか知らん。
グレースは知ってるという噂じゃったが、グレースが死んじまった以上、それも本当なのかただの噂だったのかさえもうわからんがな。」

 「ふ～ん…」

 「じゃあ、早速始めるか…」

シャルロッテは、マーサには惜しげもなく自分の知識を教えこんだ。
マーサも薬の勉強は苦手だとは言いながら、シャルロッテの期待に応えるように真面目に取り組み、少しずつその知識を増やしていった。