夢の硝子玉

それぞれの旅立ち

３６

アンドリューは、イリアスが住むと言う小屋の扉をノックした。
その扉は、いかにも良くない材質で作られ、下の方が割れてなくなっている。



 「おかしいな、どこか、出掛けているのだろうか？」

しばらく待っても、中からの返事はなかった。



 「鍵はかかってるのか？」

ロイがそう言いながらノブを回すと、軋んだ音を立てて扉が開いた。



 「あれっ？開いてるぞ。
ってことは、すぐに帰って来るんじゃ…」

そう言いかけて、ロイの言葉は中断した。
 扉を開けた途端、酒となにかが腐ったような悪臭が鼻をつき、ロイは無意識に眉をひそめた。
やがて、ロイは散らかった部屋の奥に横たわる一人の男を発見する。



 「あ……」

 男は、酒瓶やゴミの溜まったその場所に、ぐったりと倒れていた。
 入口に背を向けているため顔はわからなかったが、その髪の大半は白く、背中は曲がり、とてもリュシーと同年代には見えなかった。



 「まさか…！」

ロイのみつけたものに、リュシーもすぐに気が付いた。
リュシーは、誰よりも早く部屋の中へ飛びこむと、男の身体を揺さぶった。




 「大丈夫ですか！！」

 声をかけながら、リュシーは男の顔をのぞきこむ。
その瞬間、リュシーの動きは止まり、大きな瞳からは熱い涙が溢れ始めた。



 「イ…イリアス……
あなた、なぜ…」

リュシーの顔色は青ざめ、それ以上、何も言葉を発することなく男の顔を見つめ続ける。
そんな中、男は、周りの気配に気が付いたのか、目をこすりながらリュシーの方をのぞき見た。



 「誰だ、てめぇ！勝手に人の家にあがりこんで何してやがる…！」

 悪態を吐きながらゆっくりと身を起こしたイリアスは、他に三人の男がいることに気付き、咄嗟に手近にあった空の酒瓶を投げつける。
 酒瓶は、ロイの身体をかすめ飛び、壁に当って割れて飛び散った。



 「帰れ！
おまえらに返す金なんか、ねぇ！
 嘘だと思うんなら、勝手に家捜しでもなんでもしろ！」

 「あんた、なにか勘違いをしてるようだな。
 俺達は借金取りじゃないぞ。
あんたに話があってやって来たんだ。」

イリアスは、近付いて来るロイに向かって、今度は皿のようなものを投げつけた。
ロイは、身をよじりそれをうまく交わす。



 「話だとぉ？
 俺にどんな話があるってんだ！」

イリアスは、声を荒げ、ロイに憎しみと怒りの入り混じった瞳を向けた。