夢の硝子玉

ルカ(聖夜月ルカ)

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それぞれの旅立ち

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 「そうだわ!ここよ!
ここ…懐かしい……」

 潤んだ瞳であたりを見渡しながら、リュシーは、声を詰まらせた。



 「こりゃまた思った以上に酷い所ですな。
あなたがこんな所で生活されてたなんて、信じられません…」

 「そんなことないわ。
そりゃあ不便なこともたくさんあったけど、ここにいた二年近くの歳月は楽しいことばかりだった…」

リュシーは、零れ落ちた一筋の涙を指で拭った。



 「それは、おまえがあの男を愛していたからだろうな…
若い頃というのはそういうものだ。
 情熱がすべて…それさえあれば他のものは何も目にも入らない…
だからこそ、環境が変わり、年月が過ぎ去れば、あんなことは若い頃の過ちだったとすぐに忘れられると思っていたのだよ。」

アンドリューは、内ポケットの中から取り出した白いハンカチを妹の前に差し出した。
 誰かにイリアスの家を尋ねようと思うのだが、時間が悪いのか誰も歩いている者がいない。
やみくもに歩きながら、入り組んだ道を進んだ時のことだった。



 「よう、あんたら道でも間違ったのか?
ここらはあんたらが来るような場所じゃあないと思うがな…」

 目つきの悪い数人の男が、アンドリュー達の前に立ちふさがる。



 「ここを通るには、通行料ってもんがいるんだが…」

 一人の男が、短刀をアンドリューの目の前にちらつかせながら、低い声でそうつぶやいた。




 「いててて!」

 次の瞬間、短刀ははじかれ男の手から離れ、男の腕は不自然にねじあげられた。



 「……あと少し力を加えれば、この腕はへし折れるが、どうする……?」

 「や、や、やめろ!
こ、ここは通って良いから、やめてくれ!」

アンドリューが手を離すと、男達は早々にその場を立ち去った。



 「おいおい、アンドリューさん…
そんなに強いんなら、俺なんて雇わなくても良かったじゃないか。」

 「いや、私も最近はあまり身体を鍛えていなくてな。
 若い頃は腕に覚えもあったのだが、今でも通用するとは考えていなかったのだ。
まぁ、相手がそう強い者でなくて助かったよ。」

そう言いながら、アンドリューは笑った。

その後出会った男にイリアスのことを尋ねると、すぐに彼の居場所がわかった。



 「イリアスの家なら、あそこだよ。」

 男が指差す先に建っていたのは、スラム街の中でも一際粗末な小屋だった。

 
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