夢の硝子玉

ルカ(聖夜月ルカ)

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それぞれの旅立ち

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「なんともあやふやな話だな。
 町の名前などは覚えていないのか?」

リュシーは首を振った。
 自分自身も町の名前をあまり覚えることのないアンドリューは、それも仕方のないことだと諦めた。



 「オペラのあった町は見当がつく。
おそらくはナリムの町だ。
あの時、おまえ達は避暑のため別荘に行ってた筈だから、そこから近い劇場があるのはナリムだと思う。
……劇場の近くに赤い屋根の教会がなかったか?」

 「そうです!ありましたわ!赤い屋根の教会が…!
きっとその町です!
お兄様!私、あの日と同じように行動してみようと思います。
そうすれば、きっと何か思い出せるのではないかと思うのです。」

 「それならば私も行こう。
 何があるかわからんからな。
……それに……私も彼には謝らなければならん……」

 「お兄様……」

 「しかし、二人だけで行くわけにはいかんな。
 誰か…」

 「そうだわ、お兄様、ダグラスさんにお願いしましょう!」


 屋敷で暇を持て余していたダグラスは快諾し、次の朝、三人はナリムの町を目指して出発した。



 *



 「意外と遠かったのですね。」

 三人がナリムの町に着いた頃には、空は赤く染まっていた。



 「そうだわ、ここよ!
この会場!覚えています!
あぁ…ここはあの時のままだわ…」

 馬車を降りたリュシーは、町の中を歩き、上気した顔で会場の建物を見上げた。
 会場をみつめるリュシーの瞳が見ているものは現在ではなく、遥か昔の同じ場所。
 両親とオペラ鑑賞に出掛けたあの日の会場だった。



 「リュシー、今夜はここに泊まろう。
オぺラの休憩時間はたいがい昼だから、その頃、馬車ででかけてみることにしよう。」

 「なるほど。
 出来るだけ、当時と同じことをやってみるわけですな。」

 「その通りだ。
そうすれば、また何か思い出すことがあるかもしれないからな。」

アンドリューは、リュシーの方を見ながらゆっくりと頷いた。 

 
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