夢の硝子玉

それぞれの旅立ち

２８

＊



 「お兄様……」

 次の朝、庭を散歩するアンドリューの目の前に現れたリュシーの瞳は赤く瞼は腫れていた。



 「リュシー、もう起きたのか…もう少しゆっくりしておけば良いものを…」

 「私なら、もう大丈夫です。
 結局、昨夜は少しも眠れませんでしたわ。
……そんなことよりもお兄様…私、あの人を…イリアスとラスターを探しに行こうと思います！」

アンドリューは、妹の真っ直ぐな瞳を捉え、低い声でゆっくりと話し始めた。



 「リュシー、おまえの気持ちはよくわかる…それにこんなことになったのは私のせいでもあるのだからこんなことは言いたくない……だが、リュシー、もう二十年近くも昔のことだぞ。
おまえを見つけ出したセバスチャンでも生きていれば話は別だが、彼はもういない。
 私やおまえの記憶はとても曖昧なものだ…どうやって彼らを探し出すというんだ？」

 「……私、絶対にみつけだします！
みつけださないといけないんです。」

そう話すリュシーの瞳にじんわりと涙が浮かぶ。



 「そうか、わかった…
まずは朝食を食べる事にしようじゃないか…」

アンドリューは、リュシーの背中にそっと手をやり、二人は屋敷の中へ戻った。



 ＊



 「……では、リュシー、あの時のことを思い出してみよう。
 一つ一つ、どんな小さなことでも構わん。」

 朝食をすませた二人は、見晴らしの良いバルコニーの椅子に腰掛け、当時のことを振り返った。



 「……あの時、私が洗濯物を干してるとお父様がセバスチャンと知らない男を連れてやって来て…」

 「そうじゃない。
おまえがいなくなった、あのオペラの日だ。」

リュシーは頷き、目を閉じた。



 「あの日…私は最初からちょっとした冒険をすることを決意して、家を出ました。」

リュシーは、過去の記憶に想いをはせながら、ゆっくりと話し始めた。