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それぞれの旅立ち
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「エリオット、大丈夫か!」
「重いよ…ダルシャ、降りてよ。」
「あぁ、すまん。」
二人の耳にはまだしーしーと、鼓膜の振るえるようなおかしな感覚が残っていた。
振り向くと、男達の立っていた場所には大きな穴が空き、三人がうつぶせに倒れていた。
その身体からは薄い煙のようなものが立ち上り、焦げ臭いにおいが漂う…
「ダルシャ、後ろを向いて!」
「え…?あ……あぁ……」
エリオットに言われるままにダルシャはエリオットに背を向けた。
エリオットは、意識を集中して呪文を唱え、ダルシャの手首をくくった縄から小さな炎が燃え上がった。
「あ……熱いっっ!」
ダルシャが熱さに腕に力をこめると、縄はぷっつりと切れた。
すぐに、ダルシャはエリオットの縄をほどき、剣と硝子玉を拾い上げた。
「……ダルシャ…あの人達、全然動かないんだけど、まさか、死んじゃったんじゃあ…」
エリオットは不安げな表情を男達の方に向けた。
「だ…大丈夫だ。
気を失ってるだけだ。」
その時、森の奥から男の話し声と草を踏みしめる音が二人の耳に届いた。
「エリオット、いくぞ!」
ダルシャは荷物を抱え、走り出した。
「でも、ダルシャ…」
「良いから早く!!」
歩いて来る男達がこの状況を見れば、驚き、何があったかを尋ねるはずだ。
そして、自分達の身を守るためとはいえ、男達が自分の放った魔法のせいで絶命したと知れば、エリオットは大きなショックを受けるはずだ。
そう考え、ダルシャはエリオットを急きたてた。
「ダルシャ、どうして逃げるの?」
「他の二人は死んでるんだぞ。
事情を話し、自警団の所にでも連れていかれたらきっと時間がかかる。
何日か引き止められるかもしれないぞ。
ラスターはあんな調子だし、その間に万一セリナを狙う奴らにでもみつかったらえらいことだ…」
「ダルシャ…あいつら、さっき、あの女の人のことを巫女だって言ってたけど、まさか、あの人、セリナのお母さんじゃないよね?」
「……あぁ、違うさ。
きっとあれはスエルシアの巫女だ…
だが、セリナに心配させては良くない。
今日のことはセリナには言うなよ。」
「わかったよ。
でも…本当に関係ないよね?
セリナのお母さんじゃないよね?」
「あぁ、違う!心配するな。
それと、この格好だが…近道を進もうとして、転んだとでも言っておこう。
良いな、エリオット、さっきのことは絶対に言うんじゃないぞ。」
いつになく強い口調のダルシャに、エリオットは黙って俯いた。
「重いよ…ダルシャ、降りてよ。」
「あぁ、すまん。」
二人の耳にはまだしーしーと、鼓膜の振るえるようなおかしな感覚が残っていた。
振り向くと、男達の立っていた場所には大きな穴が空き、三人がうつぶせに倒れていた。
その身体からは薄い煙のようなものが立ち上り、焦げ臭いにおいが漂う…
「ダルシャ、後ろを向いて!」
「え…?あ……あぁ……」
エリオットに言われるままにダルシャはエリオットに背を向けた。
エリオットは、意識を集中して呪文を唱え、ダルシャの手首をくくった縄から小さな炎が燃え上がった。
「あ……熱いっっ!」
ダルシャが熱さに腕に力をこめると、縄はぷっつりと切れた。
すぐに、ダルシャはエリオットの縄をほどき、剣と硝子玉を拾い上げた。
「……ダルシャ…あの人達、全然動かないんだけど、まさか、死んじゃったんじゃあ…」
エリオットは不安げな表情を男達の方に向けた。
「だ…大丈夫だ。
気を失ってるだけだ。」
その時、森の奥から男の話し声と草を踏みしめる音が二人の耳に届いた。
「エリオット、いくぞ!」
ダルシャは荷物を抱え、走り出した。
「でも、ダルシャ…」
「良いから早く!!」
歩いて来る男達がこの状況を見れば、驚き、何があったかを尋ねるはずだ。
そして、自分達の身を守るためとはいえ、男達が自分の放った魔法のせいで絶命したと知れば、エリオットは大きなショックを受けるはずだ。
そう考え、ダルシャはエリオットを急きたてた。
「ダルシャ、どうして逃げるの?」
「他の二人は死んでるんだぞ。
事情を話し、自警団の所にでも連れていかれたらきっと時間がかかる。
何日か引き止められるかもしれないぞ。
ラスターはあんな調子だし、その間に万一セリナを狙う奴らにでもみつかったらえらいことだ…」
「ダルシャ…あいつら、さっき、あの女の人のことを巫女だって言ってたけど、まさか、あの人、セリナのお母さんじゃないよね?」
「……あぁ、違うさ。
きっとあれはスエルシアの巫女だ…
だが、セリナに心配させては良くない。
今日のことはセリナには言うなよ。」
「わかったよ。
でも…本当に関係ないよね?
セリナのお母さんじゃないよね?」
「あぁ、違う!心配するな。
それと、この格好だが…近道を進もうとして、転んだとでも言っておこう。
良いな、エリオット、さっきのことは絶対に言うんじゃないぞ。」
いつになく強い口調のダルシャに、エリオットは黙って俯いた。
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