夢の硝子玉

それぞれの旅立ち

１０

「あの、すみません。
ちょっとお尋ねしたいんですが…」

ダルシャより少し年上に見えるその男が、二人に声をかけた。



 「はい、なんでしょうか？」

 「あそこの三叉路なんですが…」

 男が指差した先に二人の視線が移った時、エリオットが短い叫び声を上げた。
それと同時に、男の低い声が響く。
 先程の声とはまるで別人のようだ。



 「動くな！」

がっしりとした男の片腕が、エリオットの首を押さえこみ、その脇には鋭い刃先が向けられた。



 「動いたらこいつの命はない。」

 続けて放たれた男の言葉に、ダルシャは抵抗する意志を捨てた。
 買い物したものを両手に持っていなければ、すぐに剣を引き抜く事も出来ただろうが、今の状況では無理だと悟ったのだ。



 「何もしないからその子には手を出さないでくれ。」

 男が合図をすると、傍にいた二人の男がダルシャの腹を殴りつけ、腰からは剣を奪った。
 荷物を落とし、うめくダルシャが膝を着いた時、中年の女性が大きな泣き声にも聞こえる叫び声をあげ三叉路を走り出した。



 「馬鹿野郎！早く追えっっ！！」

 中年女性と一緒にいた若い男は仲間の一人に激しい平手打ちを受け、すぐに女の後を追った。
 若い男の足は速く、女性との距離はすぐに縮まり、女性は乱暴に襟首を掴まれその場に引き倒された。
その間に、男達はエリオットとダルシャの腕に縄をかける。
 女性は、泣きながら必死に抵抗し、土を掴んで男の顔にぶっつけ、男がひるんだ隙に再び走り出した。
その様子を見ていたダルシャの傍にいた男の一人が、女性の元へ駆けだしたその時、あたりに女性の絶叫が響いた。



 「あの馬鹿めが…！」

エリオットを押さえていた男が舌打ちをした。
 若い男が、女性を刺したのだ。
 女性は、その場にがっくりと膝を着いて倒れ、男はその背中にさらにナイフを突き立てる。



 「やめろ！サム！」

 後から追いついた男がサムと呼ばれる若い男の手からナイフを取り上げた。



 「ひ…酷い！」

エリオットは残虐なその光景に、ガタガタと唇を震わせる。
 男は、エリオットを一瞥しただけで、何も言わなかった。

それからすぐに、血生臭い臭いと共に二人の男が戻って来た。



 「マーティ、巫女は…？」

 男は黙って目を伏せ、首を横に振った。