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メンチカツ
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「パパ…ごめんなさい。」
父を迎えた玄関先で、敦は大粒の涙をこぼした。
「敦、どうした?」
「ぼ、僕ね、僕ね……」
敦の声はなかなか言葉にならない。
敦は、父親の腕を取り、キッチンに向かった。
「うわぁ…なんだ、これ?」
「ご、ごめんなさい!」
散らかった台所で、敦は火が付いたように激しく泣き出した。
*
「……落ち着いたか?」
敦は小さく頷く。
「メンチカツ、作ろうとしてくれたんだよな?」
敦はまたさっきと同じように頷いた。
「じゃあ、今から一緒に作ろう。」
「う、うん。」
散らかった台所を片付けながら、父は冷蔵庫から材料を取りだした。
「残ってて良かったよ。
まずは、玉ねぎを刻むぞ。」
「玉ねぎも入ってたんだ…」
「そうだよ。人参も少し入ってるんだ。」
父親は、慣れた手付きで玉ねぎと人参を刻んでいく。
「パパ、上手だね。」
「まぁな、もう何年もやってるからね。
次は肉を混ぜるぞ。」
父親は、刻んだ野菜と挽肉を混ぜ合わせた。
「今、入れたのは何?」
「調味料だよ。」
「僕、ミンチを丸くしただけだった。」
「そうか。ま、大丈夫だ。
少し冷やすから、そこに座って。」
父親は、あたりを片付け、テーブルの中央にケーキを置いた。
「敦の好きなチョコケーキ、買ってきたぞ。」
「……ありがと。
今日はパパの誕生日だから…だから、メンチカツを作ってあげたかったんだ。」
「うん、わかってる、ありがとな。」
父親は、敦の頭を優しく撫でた。
「ごめんね…失敗して。」
敦の視線の先には、生焼けの肉の残骸が置いてあった。
「大丈夫だ。もう1回揚げたら食べられるよ。」
そう言いながら、父はテーブルの上にバットを並べていく。
「何してるの?」
「メンチカツを揚げる準備だよ。」
「えーー…僕、ミンチにパン粉を付けただけだった。」
敦は並べられた卵液やパン粉を不思議そうに眺めた。
「さぁ、揚げようか。」
手際良く揚げる状態に整えられていく様子に、敦は釘付けだった。
敦の作ったメンチカツもボソボソの衣をはがされ、体裁が整った。
油の中でメンチカツが段々ときつね色に色付いて…
「わぁ、美味しそう!」
メンチカツが皿に盛られ、テーブルにはサラダやチキンも並べられ、敦の摘んできた黄色い花も飾られた。
「パパ、お誕生日おめでとう。」
「ありがとう。
花、綺麗だな。どこで摘んだんだ?」
「河原だよ。」
「そっか。
でも、気を付けるんだぞ。
パパには敦しかいないんだから、元気でいてくれよ。」
「大丈夫だよ。僕はずっと元気でパパの傍にいる。
だから、明日から僕に料理を教えてよ。」
「えーっ?敦、料理がしたいのか?」
「うん!パパに美味しいメンチカツを作ってあげたいんだ。」
「そっか。」
二人っきりの誕生日パーティは、賑やかではなかったが、穏やかで満ち足りたものだった。
父を迎えた玄関先で、敦は大粒の涙をこぼした。
「敦、どうした?」
「ぼ、僕ね、僕ね……」
敦の声はなかなか言葉にならない。
敦は、父親の腕を取り、キッチンに向かった。
「うわぁ…なんだ、これ?」
「ご、ごめんなさい!」
散らかった台所で、敦は火が付いたように激しく泣き出した。
*
「……落ち着いたか?」
敦は小さく頷く。
「メンチカツ、作ろうとしてくれたんだよな?」
敦はまたさっきと同じように頷いた。
「じゃあ、今から一緒に作ろう。」
「う、うん。」
散らかった台所を片付けながら、父は冷蔵庫から材料を取りだした。
「残ってて良かったよ。
まずは、玉ねぎを刻むぞ。」
「玉ねぎも入ってたんだ…」
「そうだよ。人参も少し入ってるんだ。」
父親は、慣れた手付きで玉ねぎと人参を刻んでいく。
「パパ、上手だね。」
「まぁな、もう何年もやってるからね。
次は肉を混ぜるぞ。」
父親は、刻んだ野菜と挽肉を混ぜ合わせた。
「今、入れたのは何?」
「調味料だよ。」
「僕、ミンチを丸くしただけだった。」
「そうか。ま、大丈夫だ。
少し冷やすから、そこに座って。」
父親は、あたりを片付け、テーブルの中央にケーキを置いた。
「敦の好きなチョコケーキ、買ってきたぞ。」
「……ありがと。
今日はパパの誕生日だから…だから、メンチカツを作ってあげたかったんだ。」
「うん、わかってる、ありがとな。」
父親は、敦の頭を優しく撫でた。
「ごめんね…失敗して。」
敦の視線の先には、生焼けの肉の残骸が置いてあった。
「大丈夫だ。もう1回揚げたら食べられるよ。」
そう言いながら、父はテーブルの上にバットを並べていく。
「何してるの?」
「メンチカツを揚げる準備だよ。」
「えーー…僕、ミンチにパン粉を付けただけだった。」
敦は並べられた卵液やパン粉を不思議そうに眺めた。
「さぁ、揚げようか。」
手際良く揚げる状態に整えられていく様子に、敦は釘付けだった。
敦の作ったメンチカツもボソボソの衣をはがされ、体裁が整った。
油の中でメンチカツが段々ときつね色に色付いて…
「わぁ、美味しそう!」
メンチカツが皿に盛られ、テーブルにはサラダやチキンも並べられ、敦の摘んできた黄色い花も飾られた。
「パパ、お誕生日おめでとう。」
「ありがとう。
花、綺麗だな。どこで摘んだんだ?」
「河原だよ。」
「そっか。
でも、気を付けるんだぞ。
パパには敦しかいないんだから、元気でいてくれよ。」
「大丈夫だよ。僕はずっと元気でパパの傍にいる。
だから、明日から僕に料理を教えてよ。」
「えーっ?敦、料理がしたいのか?」
「うん!パパに美味しいメンチカツを作ってあげたいんだ。」
「そっか。」
二人っきりの誕生日パーティは、賑やかではなかったが、穏やかで満ち足りたものだった。
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