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富豪
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「ひ、ひぃぃ……」
魔法陣が急に輝き出したと思ったら、その中央に黒い影が集まり、それはやがて人の形となった。
「人間よ、お前か。
我を解放したのは。」
「そ、そうだ。」
薄汚い中年の男は震えながら答えた。
魔法陣に立っているのは、腰まで伸びた黒髪が艶やかな、美しい青年だった。
「そうか。感謝する。
恩人であるおまえの願いを叶えよう。」
「そ、それなら、俺を金持ちにしてくれ!
どれだけ遣ってもなんともないくらい、とんでもない金持ちに。」
「なんともわかりやすい願いだな。
容易いことだ。」
青年は、小さな声で何事かを詠唱した。
そして、片手を差し出した。
「なんだ?」
「どれほど遣っても無くならない金貨が湧き出す革袋と、土地の権利者と屋敷の鍵だ。」
「な、なんだって!?」
「では、さらばだ。」
青年の姿は、その場からかき消えた。
*
(あれから、もう十年か…)
ラリーは、揺り椅子に座り、葉巻の煙をゆっくりと吐き出した。
煙を見ながら、ふと昔に想いを馳せた。
ラリーは、貧しい家庭の次男として生まれた。
酒飲みであまり働かない父親、そして病弱な母親と兄弟がいた。
ラリーは子供の頃から懸命に働いた。
けれど、どれだけ働いても家計は楽にはならない。
16の年に母親が死に、ラリーはそれをきっかけに家を飛び出した。
それからのラリーは真面目に働き、節約しながら貯めた金を根こそぎ盗まれたのは二十歳を少し過ぎた頃だった。
絶望したラリーは、良くない道へ進んだ。
悪事を働きながらも金を貯めた。
ところが、それなりの金が貯まると怪我をして、治療代にすべて消えてしまった。
(いつもこうだ。)
ラリーは、さらなる絶望を体験した。
悪事を続けながら、ラリーはギリギリの生活を続けた。
稼いだ金は、酒と博打と女に消えた。
そんなある日、ラリーは、ある古い廃屋で一冊の日記帳をみつけた。
そこには、封印された悪魔を蘇らせる方法が記されていた。
半信半疑だったが、半年をかけ、地下室に魔法陣を描きあげた。
ラリーの魔法陣はちゃんと機能し、復活した悪魔に願いを叶えてもらった。
(富豪というのは、退屈なもんだったんだな。)
広大な屋敷…
使用人も大勢いる。
三度程、妻を迎えたが、いずれもうまくいかず、今は独りだ。
金さえあれば、幸せになれると、ラリーは思っていたが、現実はそうではなかった。
金の心配をすることはないが、皮肉なことにそれがまたラリーの生活から活力を奪った。
心にぽっかりと大きく空いた穴を、ラリーはどうすることも出来なかった。
魔法陣が急に輝き出したと思ったら、その中央に黒い影が集まり、それはやがて人の形となった。
「人間よ、お前か。
我を解放したのは。」
「そ、そうだ。」
薄汚い中年の男は震えながら答えた。
魔法陣に立っているのは、腰まで伸びた黒髪が艶やかな、美しい青年だった。
「そうか。感謝する。
恩人であるおまえの願いを叶えよう。」
「そ、それなら、俺を金持ちにしてくれ!
どれだけ遣ってもなんともないくらい、とんでもない金持ちに。」
「なんともわかりやすい願いだな。
容易いことだ。」
青年は、小さな声で何事かを詠唱した。
そして、片手を差し出した。
「なんだ?」
「どれほど遣っても無くならない金貨が湧き出す革袋と、土地の権利者と屋敷の鍵だ。」
「な、なんだって!?」
「では、さらばだ。」
青年の姿は、その場からかき消えた。
*
(あれから、もう十年か…)
ラリーは、揺り椅子に座り、葉巻の煙をゆっくりと吐き出した。
煙を見ながら、ふと昔に想いを馳せた。
ラリーは、貧しい家庭の次男として生まれた。
酒飲みであまり働かない父親、そして病弱な母親と兄弟がいた。
ラリーは子供の頃から懸命に働いた。
けれど、どれだけ働いても家計は楽にはならない。
16の年に母親が死に、ラリーはそれをきっかけに家を飛び出した。
それからのラリーは真面目に働き、節約しながら貯めた金を根こそぎ盗まれたのは二十歳を少し過ぎた頃だった。
絶望したラリーは、良くない道へ進んだ。
悪事を働きながらも金を貯めた。
ところが、それなりの金が貯まると怪我をして、治療代にすべて消えてしまった。
(いつもこうだ。)
ラリーは、さらなる絶望を体験した。
悪事を続けながら、ラリーはギリギリの生活を続けた。
稼いだ金は、酒と博打と女に消えた。
そんなある日、ラリーは、ある古い廃屋で一冊の日記帳をみつけた。
そこには、封印された悪魔を蘇らせる方法が記されていた。
半信半疑だったが、半年をかけ、地下室に魔法陣を描きあげた。
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(富豪というのは、退屈なもんだったんだな。)
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三度程、妻を迎えたが、いずれもうまくいかず、今は独りだ。
金さえあれば、幸せになれると、ラリーは思っていたが、現実はそうではなかった。
金の心配をすることはないが、皮肉なことにそれがまたラリーの生活から活力を奪った。
心にぽっかりと大きく空いた穴を、ラリーはどうすることも出来なかった。
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