お題小説２

051 ： 誘惑

８

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 「あ……」

 洗濯物を干し終え、店の中に戻った私は、扉を開けた瞬間にリュックとエヴァの様子がおかしいことに気が付いた。



 「え…と、その…今日は天気が良いから、早くに乾きそうだな。」

 私はそう言って、無理に笑みを浮かべた。



 「そ、そっか。
そりゃあ良かった。
やっぱり天気は良いに限るな。」

リュックの口から飛び出したのは、なんともおかしな言葉だった。
そう言うやいなや、リュックは立ち上がりモップを掴む。
やはりなにかあったのだ。
きっと、エヴァが私に洗濯物を頼んだのは、リュックと二人っきりで話したかったからなのだろう。



 「そ、それじゃあ、残りもさっさとすませてしまおう。
ディヴィッドも君が帰るのを待ってるだろうからな。」

 私はなにも気付いていないふりをして、エヴァに愛想良くそう声をかけた。
しかし、いつもならすぐに返事をするエヴァが、俯いたまま押し黙っていた。



 「……リュック…！
ソファの下はもう掃除したのか？」

 私はエヴァが答えなかったことに気付かないふりをして、今度はリュックに声をかけた。



 「え…あ…あぁ、そこはま……」
 「マルタン…あたし、ふられたみたいだよ。」

 「……え？」



リュックの声にちょうど重なるようにして、エヴァのいつもとは違うか細い声が発せられた。



 「やっぱり、リュックはあたしには何の関心もないみたいだ。」

 「エヴァ…だから、それは……」

 「あ～あ……この人ならディヴィッドのこともよく可愛がってくれるし、よく働いてくれるし、温かい家庭が作れるんじゃないかなんて思ったんだけどさ…
こんな馬鹿みたいに一途な男とは気付きもしなかった。
きっと、百年待ったって…いや、たとえ、その人が他の誰かと結婚したって、あたしにはチャンスはなさそうだよ。」

 「エヴァ……」

リュックは気まずそうに…そして酷く申し訳なさそうな顔をして、エヴァの名を呼んだ。



 「リュック…そんな顔しないでおくれ。
あたしはこのくらいのことで落ちこむような女じゃないよ。
だから、変に気を遣ったりするんじゃないよ！
それに、あたしのこととディヴィッドは関係ないんだから、あの子には今まで通り接しておくれよ！」

 「あ…あぁ、もちろんだ！」

 「それならもう良いよ。
さ、残りもちゃっちゃと片付けてしまうよ！」

エヴァは自分の膝を叩き、弾みを付けて立ち上がった。