お題小説2

ルカ(聖夜月ルカ)

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051 : 誘惑

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 「リュック、ちょっとそこにおすわりよ。」

 「え……でも、俺……まだ、掃除が……」

マルタンが外に出て行ったのを見届けたエヴァは、リュックを店の奥の長椅子に座らせた。



 「な、何なんだよ。」

リュックは、隣に座りこんだエヴァから視線をはずし、俯いたままで訊ねた。



 「あんたが心に決めた女のこと……マルタンから少し話は聞いたよ。
だから、はっきり聞かせてほしいんだ。
あんた、あたしのこと、どう思う?」

 「ど、どうって……?」

 「だから…その……つまり、好きなタイプかそうじゃないかってことだよ。」

 「タイプ?……俺…そういうことはあんまりよくわからないんだ。
だ、だけど、あんたは可愛いと思う。
う、うん、すごく魅力的だ!」

 「……いい加減なこと言って…!」

エヴァは、自らの身体をリュックに押しつけるようにして、唇を重ねた。
リュックは、目を大きく見開いたまま人形のように固まっていたが、やがて、夢から覚めたように、エヴァの身体を押しやった。




 「どうだい?何か感じたかい?
それとも……」

 「やめろよ!」

いつもとは違うリュックの激昂ぶりに、エヴァの唇は何かを言いかけたまま、声にはならなかった。
リュックは、不機嫌な表情で俯き、エヴァはそんな彼の様子を心配そうにみつめる。



 「俺……ディヴィッドのことが大好きなんだ。
 我が子みたいに可愛く思ってる。
だけど、そのこととあんたのことは別だ。」

 「……そんなにあたしのことが嫌いなのかい?」

 「だから、そうじゃないって言ってるだろ?
マルタンからどんな風に聞いたかは知らないが、ナディアは俺なんかと釣り合う女じゃないんだ。
きっともう俺のことなんて忘れて誰かと結婚してるさ。
その方が良いんだ。
 俺なんか待ってる必要はねぇ……
 ……だけど、それでも俺の心に住んでるのは彼女だけなんだ。
 彼女のことをたまに思い出すだけで……俺は、それだけで幸せなんだ。」

エヴァは、リュックの言葉にただ黙って耳を傾ける。
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