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051 : 誘惑
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「リュック、ちょっとそこにおすわりよ。」
「え……でも、俺……まだ、掃除が……」
マルタンが外に出て行ったのを見届けたエヴァは、リュックを店の奥の長椅子に座らせた。
「な、何なんだよ。」
リュックは、隣に座りこんだエヴァから視線をはずし、俯いたままで訊ねた。
「あんたが心に決めた女のこと……マルタンから少し話は聞いたよ。
だから、はっきり聞かせてほしいんだ。
あんた、あたしのこと、どう思う?」
「ど、どうって……?」
「だから…その……つまり、好きなタイプかそうじゃないかってことだよ。」
「タイプ?……俺…そういうことはあんまりよくわからないんだ。
だ、だけど、あんたは可愛いと思う。
う、うん、すごく魅力的だ!」
「……いい加減なこと言って…!」
エヴァは、自らの身体をリュックに押しつけるようにして、唇を重ねた。
リュックは、目を大きく見開いたまま人形のように固まっていたが、やがて、夢から覚めたように、エヴァの身体を押しやった。
「どうだい?何か感じたかい?
それとも……」
「やめろよ!」
いつもとは違うリュックの激昂ぶりに、エヴァの唇は何かを言いかけたまま、声にはならなかった。
リュックは、不機嫌な表情で俯き、エヴァはそんな彼の様子を心配そうにみつめる。
「俺……ディヴィッドのことが大好きなんだ。
我が子みたいに可愛く思ってる。
だけど、そのこととあんたのことは別だ。」
「……そんなにあたしのことが嫌いなのかい?」
「だから、そうじゃないって言ってるだろ?
マルタンからどんな風に聞いたかは知らないが、ナディアは俺なんかと釣り合う女じゃないんだ。
きっともう俺のことなんて忘れて誰かと結婚してるさ。
その方が良いんだ。
俺なんか待ってる必要はねぇ……
……だけど、それでも俺の心に住んでるのは彼女だけなんだ。
彼女のことをたまに思い出すだけで……俺は、それだけで幸せなんだ。」
エヴァは、リュックの言葉にただ黙って耳を傾ける。
「リュック、ちょっとそこにおすわりよ。」
「え……でも、俺……まだ、掃除が……」
マルタンが外に出て行ったのを見届けたエヴァは、リュックを店の奥の長椅子に座らせた。
「な、何なんだよ。」
リュックは、隣に座りこんだエヴァから視線をはずし、俯いたままで訊ねた。
「あんたが心に決めた女のこと……マルタンから少し話は聞いたよ。
だから、はっきり聞かせてほしいんだ。
あんた、あたしのこと、どう思う?」
「ど、どうって……?」
「だから…その……つまり、好きなタイプかそうじゃないかってことだよ。」
「タイプ?……俺…そういうことはあんまりよくわからないんだ。
だ、だけど、あんたは可愛いと思う。
う、うん、すごく魅力的だ!」
「……いい加減なこと言って…!」
エヴァは、自らの身体をリュックに押しつけるようにして、唇を重ねた。
リュックは、目を大きく見開いたまま人形のように固まっていたが、やがて、夢から覚めたように、エヴァの身体を押しやった。
「どうだい?何か感じたかい?
それとも……」
「やめろよ!」
いつもとは違うリュックの激昂ぶりに、エヴァの唇は何かを言いかけたまま、声にはならなかった。
リュックは、不機嫌な表情で俯き、エヴァはそんな彼の様子を心配そうにみつめる。
「俺……ディヴィッドのことが大好きなんだ。
我が子みたいに可愛く思ってる。
だけど、そのこととあんたのことは別だ。」
「……そんなにあたしのことが嫌いなのかい?」
「だから、そうじゃないって言ってるだろ?
マルタンからどんな風に聞いたかは知らないが、ナディアは俺なんかと釣り合う女じゃないんだ。
きっともう俺のことなんて忘れて誰かと結婚してるさ。
その方が良いんだ。
俺なんか待ってる必要はねぇ……
……だけど、それでも俺の心に住んでるのは彼女だけなんだ。
彼女のことをたまに思い出すだけで……俺は、それだけで幸せなんだ。」
エヴァは、リュックの言葉にただ黙って耳を傾ける。
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