お題小説2

ルカ(聖夜月ルカ)

文字の大きさ
上 下
278 / 389
047 : 猫の目

10

しおりを挟む
「リュック!そんな責めるような言い方は良くないわ!」

 「お、俺はなにもそんな……」

クロワの激しい剣幕に、リュックは口篭もりながら目を伏せた。



 「リンゼイさん……」

クロワは席を立ち、リンゼイの傍に回り込み白いハンカチをそっと差し出す。



 「……あ、ありがとうございます。
それに…この方のおっしゃる通りです。
わ、私が悪いんです。」

 「……大丈夫よ。」

 優しく背中をさするクロワに、リンゼイも少しずつ落ち付きを取り戻し、しばらくしてようやくリンゼイの涙は止まった。



 「取り乱してしまってすみません……
私が……私が悪いんです。
 父が死んだのは、私のせい……
私が父に心配をかけたから、それで父は……」

 「リンゼイさん、それは……」

 話しかけたクロワに、私は首を振ってそれを制した。
リンゼイは、まだなにかを話そうとしていたから……
クロワは私の動作にすぐに気付き、それ以上なにも言わなかった。




 「父は、私のことをあんなに愛してくれて、あんなに可愛がってくれたのに、私はそんな父の想いを振りきって家を出ました。
そのことで父の命を縮めてしまったことが申し訳なくて……
私はなんてことをしてしまったんだろうって、後悔に押し潰されそうになりました。
 私が父の言う通りにしていたら、きっと今でも父は元気だったはず。
だから……帰れなかったんです。
 父に合わせる顔がなかった……
母になんといって詫びたら良いのかもわからなかった……
だから、私は……どうしても……」

リンゼイの唇がわななき、彼女の華奢な肩が震え、それをクロワがそっと抱き締めた。



 「リンゼイさん…
人の寿命は、残念ながら人間ごときにどうこう出来るもんじゃない。
あんたのおやじさんは、あんたのせいで死んだんじゃない。
それは、神様がお決めになったことなんだ。
そりゃあ、おやじさんがあんたのことを心配してたのは間違いないだろう。
だけどな…考えてみろよ。
 親に心配をかけたり、言うことをきかない子供なんて、世の中には山ほどいる。
だけど、その親がみんな死んじまうわけじゃないんだぜ?
あんたが、自分を責めるのは筋違いなことだし、そんなことをしてもあんたのおやじさんは少しも喜ばない。
……喜ばないどころか、却って悲しむだろうな。」

 今度はクロワもリュックの言葉を咎めることはなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】深窓の骸骨令嬢 〜ループを繰り返してリッチになった骸骨令嬢の逆襲〜

はぴねこ
ファンタジー
婚約者の王太子によって悪役令嬢にされてしまったスカーレットは両親と共に国を出奔することになったのだが、海の事故で両親が亡くなってしまう。 愛する両親を救うための二度目の人生、三度目の人生も上手くいかず、スカーレットは両親や領民を危険に陥れる存在を一掃することにした。 ループを繰り返してリッチとなったスカーレットの逆襲が始まる。 ※物語後半に残酷な描写があります。ご注意ください。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *無断転載、無断翻訳を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

目覚めれば異世界!ところ変われば!

秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。 ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま! 目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。 公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。 命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。 身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

加護を疑われ婚約破棄された後、帝国皇子の契約妃になって隣国を豊かに立て直しました

ファンタジー
幼い頃、神獣ヴァレンの加護を期待され、ロザリアは王家に買い取られて王子の婚約者となった。しかし、侍女を取り上げられ、将来の王妃だからと都合よく仕事を押し付けられ、一方で、公爵令嬢があたかも王子の婚約者であるかのように振る舞う。そんな風に冷遇されながらも、ロザリアはヴァレンと共にたくましく生き続けてきた。 そんな中、王子がロザリアに「君との婚約では神獣の加護を感じたことがない。公爵令嬢が加護を持つと判明したし、彼女と結婚する」と婚約破棄をつきつける。 家も職も金も失ったロザリアは、偶然出会った帝国皇子ラウレンツに雇われることになる。元皇妃の暴政で荒廃した帝国を立て直そうとする彼の契約妃となったロザリアは、ヴァレンの力と自身の知恵と経験を駆使し、帝国を豊かに復興させていき、帝国とラウレンツの心に希望を灯す存在となっていく。 *短編に続きをとのお声をたくさんいただき、始めることになりました。引き続きよろしくお願いします。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

処理中です...