お題小説2

ルカ(聖夜月ルカ)

文字の大きさ
上 下
261 / 389
045 : 盗み聞きの値段

16

しおりを挟む




 「じゃ、行ってくるね!」

 「あぁ、気をつけてな!」



テリーは無邪気な笑みを浮かべ、私達に手を振り駆け出して行った。
リュックの用意した朝食は、私達が持っていた缶詰やパンや果物だったのだが、そんなものにもテリーは顔を綻ばせた。
 私が推測していた以上に、彼らの生活は逼迫したものだったのだろう。
 台所にも食料らしきものはほとんどなかった。
 野菜のくずやパンの耳、そして野草…
こんなものしか食べていないのでは、母親の病気が良くなるどころか、子供達もいつ倒れてもおかしくない状況だ。



 「さて…と。
マルタン、診療所をまわって、それから買い物にでも行くか。」



リュックが何をしようとしているのか、だいたいの見当はつく。
 破れたガラス窓、建付けの悪いドア、天井の染み…
リュックはきっとこの家のそういう所を修繕し、夜にはテリーにうまいものを食べさせてやろうと考えているのだろう。
リュックのおかげで私も以前に比べるとそういった作業が少しずつ出来るようになっていた。



 「あぁ…そうだな。
カールがちゃんと言い付けられた仕事をこなしてるかも確かめなきゃいけないからな。」

リュックは私の軽口に失笑した。



 「確認するまでもないさ。
あいつは間違いなくきちんとこなしてるだろうからな。」

 「……君の言う通りだな。」



 *



 「あ、リュックさん、マルタンさん!」



 病室の扉を開けると、カールはいつになく明るい声で私達を出迎えた。
クロワも、同じように微笑んでいる。
 二人の微笑みは、きっと、良い事があった印なのだと予感させた。



 「お母さんの容態はどうだ?」

 「今朝ね…母さんが目を覚ましたんです。
ここに入院出来る事になったって知って、母さんすごく喜んでた…
頑張って必ず元気になるって約束してくれたんです。」

カールは目を輝かせてそう言った。



 「そうか…そりゃあ、良かったな。
じゃあ、これからもちゃんとお母さんの世話をするんだぞ。
……クロワさん、こいつはちゃんと仕事をしてるかい?
サボったりしないようにちゃんと目を光らせておいてくれよ。
なんせ、治療費の代わりに働いてもらってるんだからな。」

そう言って、リュックはクロワに目配せを送る。



 「大丈夫よ。
カールはとてもよくやってくれてるわ。」

 優しく微笑むクロワに、カールも嬉しそうに微笑んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

ライゼン通りのパン屋さん ~看板娘の日常~

水竜寺葵
ファンタジー
あらすじ  ライゼン通りの一角にある何時も美味しい香りが漂うパン屋さん。そのお店には可愛い看板娘が一人いました。この物語はそんな彼女の人生を描いたものである。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ

Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_ 【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】 後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。 目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。 そして若返った自分の身体。 美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。 これでワクワクしない方が嘘である。 そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。

奥さまは魔王女

奏 隼人
ファンタジー
仙石優也はひょんなことからプラティナという美女と恋に落ちた… 二人は普通の恋、普通の結婚、普通に子育てをして幸せに暮らすのだが一つだけ普通じゃないことが… そう…奥さまは魔王女だったのです⁉︎

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。

千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。 気付いたら、異世界に転生していた。 なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!? 物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です! ※この話は小説家になろう様へも掲載しています

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

処理中です...