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044 : 柩
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すべてが繋がった。
あの女性が会いたがっていたのは、今、私達の目の前にいるこの老人。
老人の名前はやはりリュックの感じた通り「エリック」だった。
そして、あの女性の名はソフィー。
ようやくエリックの嗚咽がおさまってきた頃、良い茶葉の香りが部屋に漂い、赤い目をしたタバサがお茶を運んで来た。
エリックは半身を起こし、緩慢な動作でカップに口を着ける。
少しずつお茶をすすり、小さな溜め息を一つ漏らすと、彼はぽつりぽつりとソフィーについて話し始めた。
ソフィーは宿屋の娘だった。
子供の頃から頭の良かったソフィーは、遠い町に住む伯母の家に預けられその町の学校に通っていた。
卒業したソフィーが町に戻ったことで二人は出会い、すぐに恋に落ちた。
二人の恋は順調そのもので、何の邪魔も入らずとんとん拍子に結婚話にいきついた。
結婚式を一週間後に控え、これからの薔薇色の人生に胸を弾ませていたある日、エリックは、少し離れた町まで結婚指輪を受け取りに出掛けていた。
受けとって来た指輪を大切そうに胸に抱き、町に戻ったエリックに、信じられない報せが待っていた。
それは、ソフィーが死んだという報せだった。
朝、会った時にはいつもとまったく変わらない様子だったソフィーが、昼過ぎに心臓の発作を起こし死んだと言うのだ。
目の前に横たわるソフィーはまるで眠っているようで、それがエリックをますます悲しい気持ちにさせた。
仕事もほっぽりだし、裏山の墓地に埋葬されたソフィーの墓にエリックは毎日通った。
墓の下に眠るソフィーと話すことで、彼は一日の大半を過ごした。
そんなある日、町を大きな台風が襲った。
それは、今まで誰も体験したことのないような大きな台風で、エリックの家やソフィーの宿屋も当然甚大な被害を受けた。
皆が台風の残した傷跡の修復に、がむしゃらに働いた。
この時ばかりは、エリックもソフィーのことを忘れ、皆と一緒に懸命に働いた。
数日経ち、ようやく気持ちの落ち着いたエリックはソフィーの眠る墓場を訪ねた。
そこで、彼が目にしたものは崩れ落ちた墓場の一角だった。
エリックは、すぐさま町に引き返し、町の人々にそのことを伝えた。
流された墓石や柩は、町の皆の協力により数日後には見つけ出された。
だが、ソフィーの柩だけがどうしてもみつからなかった。
時が過ぎ、探索が打ちきられても、エリックだけは根気良くソフィーを探してまわった。
何年も何年も探したがそれでもソフィーの柩はみつからなかった。
あの女性が会いたがっていたのは、今、私達の目の前にいるこの老人。
老人の名前はやはりリュックの感じた通り「エリック」だった。
そして、あの女性の名はソフィー。
ようやくエリックの嗚咽がおさまってきた頃、良い茶葉の香りが部屋に漂い、赤い目をしたタバサがお茶を運んで来た。
エリックは半身を起こし、緩慢な動作でカップに口を着ける。
少しずつお茶をすすり、小さな溜め息を一つ漏らすと、彼はぽつりぽつりとソフィーについて話し始めた。
ソフィーは宿屋の娘だった。
子供の頃から頭の良かったソフィーは、遠い町に住む伯母の家に預けられその町の学校に通っていた。
卒業したソフィーが町に戻ったことで二人は出会い、すぐに恋に落ちた。
二人の恋は順調そのもので、何の邪魔も入らずとんとん拍子に結婚話にいきついた。
結婚式を一週間後に控え、これからの薔薇色の人生に胸を弾ませていたある日、エリックは、少し離れた町まで結婚指輪を受け取りに出掛けていた。
受けとって来た指輪を大切そうに胸に抱き、町に戻ったエリックに、信じられない報せが待っていた。
それは、ソフィーが死んだという報せだった。
朝、会った時にはいつもとまったく変わらない様子だったソフィーが、昼過ぎに心臓の発作を起こし死んだと言うのだ。
目の前に横たわるソフィーはまるで眠っているようで、それがエリックをますます悲しい気持ちにさせた。
仕事もほっぽりだし、裏山の墓地に埋葬されたソフィーの墓にエリックは毎日通った。
墓の下に眠るソフィーと話すことで、彼は一日の大半を過ごした。
そんなある日、町を大きな台風が襲った。
それは、今まで誰も体験したことのないような大きな台風で、エリックの家やソフィーの宿屋も当然甚大な被害を受けた。
皆が台風の残した傷跡の修復に、がむしゃらに働いた。
この時ばかりは、エリックもソフィーのことを忘れ、皆と一緒に懸命に働いた。
数日経ち、ようやく気持ちの落ち着いたエリックはソフィーの眠る墓場を訪ねた。
そこで、彼が目にしたものは崩れ落ちた墓場の一角だった。
エリックは、すぐさま町に引き返し、町の人々にそのことを伝えた。
流された墓石や柩は、町の皆の協力により数日後には見つけ出された。
だが、ソフィーの柩だけがどうしてもみつからなかった。
時が過ぎ、探索が打ちきられても、エリックだけは根気良くソフィーを探してまわった。
何年も何年も探したがそれでもソフィーの柩はみつからなかった。
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