お題小説2

ルカ(聖夜月ルカ)

文字の大きさ
上 下
124 / 389
027 : 黄泉の笛

しおりを挟む
何度言い聞かせても、いざ実行に移そうとすると、ピーターの全身はガタガタと震えた。

 (あんなものは遥か大昔に誰かが作り出したただの伝説だ…
破魔矢が引き抜かれた所で、何も起こりはしない…
ローブのため…ローブの明るい未来のために僕がやらなきゃいけないんだ!)

ピーターは、まるで呪文のように心の中でその考えを何度も何度もめぐらせる…

その時、少しずつ強さを増す雨音に混じって、なにか不思議な音が聞こえるのをピーターは感じた。



 (……あの音は?)

 耳を澄ませじっと聞き入ると、それはピーターには笛の音のように思えた。
とても物悲しく、それでいて力強さを感じる不思議な音だった。
ピーターはその笛の音に誘われるかのように、音源に向かって歩き出していた。

 数歩歩いて、ピーターは不意に立ち止まる…
それは、その音源が悪魔の屋敷の中から聞こえてくるように感じられたからだ。
 誰も立ち入るはずのない廃墟から笛の音が聞こえて来ると思うと、ピーターの足はすくみ、再び身体に震えが走った。
その間も途切れることのない笛の音は、ピーターの恐怖心とは裏腹に、耳を傾ければ傾けるほどなんともいえない魅惑的な気分を感じさせた。




 (そうか…!
きっと、この廃墟のことを知らないどこかの旅人か誰かが雨宿りに入ってるんだ…)

ピーターは都合の良い想像を思い付き、一人で満足げに頷いた。
 悪魔の館に誰か先客がいるということが、妙にピーターを安心させた。



 (でも、まさか、破魔矢の刺さってる場所にはいないだろうな…)

ピーターはいつの間にか、館の中に足を踏み入れていた。
 先ほどまであれほど躊躇していたことが嘘のように…
奥へ進む毎に館の中は暗くなり、ピーターは用意して来たランプに灯かりを灯す。
 無論、ピーターがこの館へ入ったのは初めてのことだったが、不思議と破魔矢の刺さっている場所には見当が付いた。
 長い通路を突っ切り、地下の奥深くへ続く階段をみつけたピーターは、破魔矢がその先にあることをなぜかしら確信していた。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ

Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_ 【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】 後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。 目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。 そして若返った自分の身体。 美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。 これでワクワクしない方が嘘である。 そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。

【旧版】桃色恋華~永遠に奏でるメロディー~

美和優希
恋愛
貴女が旅立ってから3年 桃の花が咲き乱れる季節に 止まっていた時の音は 再びゆっくりと 甘い音色を奏で始めた *『桃色恋華』の続編です。* 『桃色恋華』を先に読んでいただくことをおすすめします。 ※この作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。 ※初回公開・完結*2012.04.26~2012.06.23(他サイト) ※近い将来、本編とともにリメイク予定です。こちらはリメイク前のものになります。

チート級のジョブ「夜闇」についた俺は欲望のままに生きる

亜・ナキ
ファンタジー
転生を果たしてしまった俺は、チート能力としか思えないジョブ「夜闇」になってしまう。金持ち王子に仕返ししたり、美少女を助けたり、気まぐれに、好き放題、欲望のままに俺は生きる。 すみません。しばらく連載中止します

ファンタジーはマジカルじゃない!

雉虎 悠雨
ファンタジー
城下街の裾の方で【幻想屋】という本屋を営む青年ケマル。 ケマル自身はほぼ人間だったが、ある信条を掲げていた。 「店に来る客はどんな奴でも大歓迎。人間でも化けた狐でも狸でも、エルフだろうがフェアリーだろうが、アンデッドだろうか、妖怪でも悪魔でも天使でも」 フィクション限定の物語好きのための本屋で、実際様々なお客がやってきて食べるのには困らないくらいには売り上げていた。 けれどいつしか、本を買っていくお客ばかりではなくなっていく。 細々と好きな本に囲まれてこじんまりと生きていくはずのケマルの計画は確実に、その理想から逸れていく。 ※小説家になろうにも掲載しています

【完結】あなたの思い違いではありませんの?

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
複数の物語の登場人物が、一つの世界に混在しているなんて?! 「カレンデュラ・デルフィニューム! 貴様との婚約を破棄する」 お決まりの婚約破棄を叫ぶ王太子ローランドは、その晩、ただの王子に降格された。聖女ビオラの腰を抱き寄せるが、彼女は隙を見て逃げ出す。 婚約者ではないカレンデュラに一刀両断され、ローランド王子はうろたえた。近くにいたご令嬢に「お前か」と叫ぶも人違い、目立つ赤いドレスのご令嬢に絡むも、またもや否定される。呆れ返る周囲の貴族の冷たい視線の中で、当事者四人はお互いを認識した。  転生組と転移組、四人はそれぞれに前世の知識を持っている。全員が違う物語の世界だと思い込んだリクニス国の命運はいかに?!  ハッピーエンド確定、すれ違いと勘違い、複数の物語が交錯する。 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/11/19……完結 2024/08/13……エブリスタ ファンタジー 1位 2024/08/13……アルファポリス 女性向けHOT 36位 2024/08/12……連載開始

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚

咲良喜玖
ファンタジー
アーリア戦記から抜粋。 帝国歴515年。サナリア歴3年。 新国家サナリア王国は、超大国ガルナズン帝国の使者からの宣告により、国家存亡の危機に陥る。 アーリア大陸を二分している超大国との戦いは、全滅覚悟の死の戦争である。 だからこそ、サナリア王アハトは、帝国に従属することを決めるのだが。 当然それだけで交渉が終わるわけがなく、従属した証を示せとの命令が下された。 命令の中身。 それは、二人の王子の内のどちらかを選べとの事だった。 出来たばかりの国を守るために、サナリア王が判断した人物。 それが第一王子である【フュン・メイダルフィア】だった。 フュンは弟に比べて能力が低く、武芸や勉学が出来ない。 彼の良さをあげるとしたら、ただ人に優しいだけ。 そんな人物では、国を背負うことが出来ないだろうと、彼は帝国の人質となってしまったのだ。 しかし、この人質がきっかけとなり、長らく続いているアーリア大陸の戦乱の歴史が変わっていく。 西のイーナミア王国。東のガルナズン帝国。 アーリア大陸の歴史を支える二つの巨大国家を揺るがす英雄が誕生することになるのだ。 偉大なる人質。フュンの物語が今始まる。 他サイトにも書いています。 こちらでは、出来るだけシンプルにしていますので、章分けも簡易にして、解説をしているあとがきもありません。 小説だけを読める形にしています。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

処理中です...