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ルカ(聖夜月ルカ)

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071. 雨に濡れても

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「このいちごだったら、砂糖はこのくらいだね。」

祖母は慣れた手付きで鍋にいちごを入れ、その上からサラサラの砂糖をふりかけた。



「さぁ、これからしばらくこうして漬けとかないといけないから、おまえは家にお帰り。
遅くなったら母さんが心配するよ。」

祖母と楽しい時を過しているうちに、思ったよりも遅くなっていた。



「本当だわ。
急いで帰らないと、母さんが心配するわ。
じゃあ、おばあちゃん、またね!
これから、ここには私が来ますからね!」

フィーネは手を振り、祖母の家を後にした。



(早く帰らなくちゃ!)



遅くなったとはいえ、それほど酷い遅れではなかった。
だが、あの心配性の母親のことだ。
ほんの少し遅くなっただけでも、痛む足をひきずって自分のことを探しに来るだろう。
そう思うと、フィーネは足を緩めることは出来なかった。



(……あ……)

フィーネの焦る気持ちを邪魔するかのように、冷たい物が彼女の頬に当たった。



(雨だわ……)

フィーネは、物置小屋のひさしの下に駆け込んだ。
ひさしの奥からフィーネが見上げた空は青く、雨雲はまったく出ていない。
よく見ると、雨は向こうの方から少しずつフィーネの方に近付いて来ている。
ほんの一塊…数軒の家だけを濡らす程度のとてもおかしな雨粒の塊だ。



「あ……!」

おかしな雨の塊を見つめるフィーネが短い叫び声を上げた。



「あれは、虹色の雨……」

フィーネは、独り言のように小さな声でそう呟いた。



近付いてきた雨粒は、七色に輝く雨だった。
赤く降り、黄色く輝き、青く流れ…
その雨は、つい見惚れてしまう程に美しい雨だった…



(きっとこれがおばあちゃんの言ってた虹色の雨…
本当にあったのね!)

フィーネは祖母から聞いた話を思い出していた。
それは、祖母がまだ子供だった頃、大好きだったおじいちゃんに聞いた話をフィーネに話してくれたもの。
ある時、七色に輝く不思議な雨が降り、村の人々はそれを怖れて家の中に逃げ込んだ。
虹色の雨には昔から様々な伝説が語り継がれていた。
ある者は、あれは打たれたら身体が溶ける悪魔の雨だと言い、またある者はあれは病気が治ったり金持ちになれる幸せの雨だと言った。
結局、その後、虹色の雨が降る事はなく、あれが本当はどういう雨なのか…いや、本当にそんなものがあったのかどうかさえ誰にもわからないまま、長い年月が流れていた。
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