Gift

ルカ(聖夜月ルカ)

文字の大きさ
上 下
440 / 697
064. 水に没む

しおりを挟む
「おじさん、うちの商品は良いものばかりだよ。
母さんと姉さんが、心をこめて丁寧に作ったものだから。」

少年の嬉しそうで、どこか誇らしげな笑顔を見ていると、俺は「いらない」という言葉が言えなくなってしまった。
結局、俺は男に言われるままに、ピンクの生地に花の刺繍の入ったスカーフを受け取った。
手触りからして、それが質の良いものだということはすぐにわかる。
きっと高価なものなのだろう。
どこかで売ればきっと良い稼ぎになるだろうに…
俺のちょっとした親切心に、そこまで感謝してくれた男に、俺は胸が熱くなった。

親子と別れた俺は、森を通り抜け町に入った。
医者がいないというのも頷ける小さな町だったが、幸いなことに酒場はあった。
食堂と酒場を兼ねたような古い店で、店内はそれなりに賑わっていた。

俺は、そこで相席になった男と息投合し、朝まで飲み明かした。







「お客さん、朝だよ。
ウェイド、仕事は良いのかい?」

店のおかみに起こされ、俺が目を覚ました時、店の中の様子は昨夜とはすっかり変わっていた。
昨夜いたはずの酔っ払いはほとんど姿を消し、この町には不似合いな着飾った若い娘とその使用人らしき中年の男が少し離れたテーブルで朝食を食べていた。



「おかみ、俺達にコーヒーをくれ。
うんと熱くて苦いやつな。
ラスティ、それで良いだろ?」

「あ…あぁ…」

男の事は覚えている。
昨夜、相席になった男だ。
確か、職人だと言ってたような気がするが、俺はその男の名前も覚えていなければ、自分の名前を教えたことも覚えてはいなかった。



「苦いコーヒーを飲めば、頭もすっきりするさ。」

男は片目をつぶると、カウンターの方へ歩き出した。
いつもそうしているのかどうかはわからないが、カウンターでコーヒーを受け取ると、両手にそれを持ってまたテーブルの方へ歩いて来る…
その時だった。
ちょうど席を立とうとした女の身体が、ウェイドの腕にぶつかり、その瞬間、持っていたコーヒーがこぼれた。
女は短い叫び声をあげると、ドレスについた茶色い染みに困惑した顔を向けた。



「まぁまぁ、大変だ!
ちょっと待って下さいよ!」

おかみが濡らしたナプキンを手に女の元へ駆け付け、女のドレスに付いた染みを拭った。
そのおかげで染みはずいぶん薄れたが、当然、完全には消えなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

私は何人とヤれば解放されるんですか?

ヘロディア
恋愛
初恋の人を探して貴族に仕えることを選んだ主人公。しかし、彼女に与えられた仕事とは、貴族たちの夜中の相手だった…

処理中です...