Gift

ルカ(聖夜月ルカ)

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064. 水に没む

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「どうした、坊主?なにかあったのか?」

「父さんが…父さんがお腹が痛いって倒れて…」

「おやじさんが!?
それで、おやじさんはどこなんだ?」

少年は俺を森の奥へ案内した。
一本の木の根元に男がもたれかかり、油汗を流しながら苦しそうな顔をしていた。



「大丈夫か?
どこが痛むんだ?」

「胃…胃のあたりが…」

「この先に町があるようだから、そこまで背負って運ぼう。」

「おじさん、僕、ついさっき戻ってみたんだけど、この先の町には医者はいないんだ。
それに薬屋もないんだ。」

少年は、目に涙を浮かべ、俺にすがるような視線を投げかけた。



「なんだって?そいつは困ったなぁ……
あ……!」

俺は、爺さんの息子からもらった薬のことを思い出した。
そんなものが効くかどうかはわからなかったが、今出来ることはそれしかない。
俺は、男に薬を飲ませた。

飲ませてしばらくは何の変化もなく、これからどうすれば良いのかと俺は途方に暮れていた。
しかし、ある時を境に男のうめき声がなくなった。
痛みがおさまって来たと言い出してから、男の状態は一気に回復した。
一時間も経った頃には、先ほどの苦しみようが嘘のように元気になっていた。



「ありがとうございました。
あなたのおかげで助かりました。」

「おじさん、どうもありがとう!」

「いや、薬が効いて良かったよ。
あ、そうだ、もし、この先でまたあんなことが起きたら大変だから、これも持って行ってくれ。」

俺は、残りの胃薬を手渡した。



「本当にありがとうございます。
何かお礼をしたいのですが、あいにく……」

男は、木の根元に置いた袋の中をごそごそとのぞき、失望したように頭を振った。



「実は、私は絹製品の行商をしているのですが、紳士ものはネクタイも手袋も売りきれてしまった。
今残っているのは婦人もののスカーフしかないのです。」

「礼なんて良いよ。
そんなこと、気にしないでくれ。」

「あ…!そうだ!
女性ものでも良いわけですよね。
奥様か恋人にでも差し上げて下さい。」

男が悪意を持っていないことはわかっていたが、その言葉は俺の心の傷口をさらに開かせた。
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