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ルカ(聖夜月ルカ)

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064. 水に没む

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俺は、よろよろと立ち上がった。
このまま座っていたら、ますます悲しくなって立ちあがれなくなってしまいそうな気がしたから。

あてもなく、ただただ道なりに進んでいると、どこからか焦げ臭い臭いが俺の鼻をくすぐった。
それとほぼ同時に、少し先の小屋から、空に向かって一条の黒い煙が立ち昇るのが見えた。



「火事だーーー!
誰か来てくれーーー!」

小屋の横にしゃがみこんだ老人が、慌てた様子で叫ぶのが見えた。
街道には俺の他には誰もいない。
俺の身体は、老人の声に反応し咄嗟に走りだしていた。
小屋の裏手に回りこむと、その脇に積まれた干草と小屋の壁が赤い炎に包まれていた。



「爺さん、ここは危険だ。
早くここを離れないと…!」

「それが、慌てて転んだ拍子に足をくじいて…うっ…」

老人は、立ちあがろうと足に力を込めた途端、痛さで顔をしかめた。
俺は、爺さんを背負うと、その場を駆け出した。







「この度は、本当にどうもありがとうございました。」

送り届けた老人の家は、思ってたよりも大きなものだった。
その晩は夕食をご馳走になった上に泊めてもらい、次の朝、発つ時には息子が謝礼の金と薬まで持たせてくれた。
家を出て、街道の片隅でそっと封筒を開けて見ると、その晩の宿賃になりそうな額が入っていた。
薬の包みはやけに大きいと思っていたら、爺さんを助ける時に出来た小さなやけどのための薬だけではなく、腹痛や頭痛の薬や風邪薬までが入っていた。
俺があちこちを旅していると嘘を吐いたから、気を利かせてくれたのだろう。



(どうせなら、あっさり死ねる薬でもくれれば良いものを…)



爺さんのことで一瞬は忘れていた辛い気持ちがまた押し寄せ、俺はそんなことを考えて顔を曇らせた。
沈んだ気分を吹き飛ばすため、俺は次の町に着いたら、もらった金を使って飲めるだけ酒を飲もうと考えた。
たとえ一時でもメアリのことが忘れられるのなら…
そう思うと、歩き出す足にも力がこもった。

街道をしばらく進むと森があった。
立て札によると、その森を抜けた所に町があるようだ。



「あ、おじさん!!」

向こう側から走って来る少年に俺は声をかけられた。
少年はよほど遠くから走って来たのか、そう暑くもない季節だというのに、額に玉の汗を浮かべていた。
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