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ルカ(聖夜月ルカ)

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043. 妾腹の王族

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アンドレアスは、グラディスとゼトラと三人で暮らす幸せな日々を夢見た。
もしも、それでイングリッドの国が攻め入って来るというのなら、その時は立ち上がろう!
自分は命を賭けてグラディスとゼトラを守り抜く!
アンドレアスの心の中には、そこまでの強い決意が固まっていた。
そんなことからか、アンドレアスは以前にも増してグラディスの元へ足繁く通うようになった。
そして、そんな彼の行動が、思わぬ悲劇を生むこととなった…



「グラディス!
ゼトラ?
いないのか?」

アンドレアスが、グラディスの家を訪れるのはいつも夜…
それなのに、二人がいないのだ。
アンドレアスはしばらく部屋で待っていたが、二人が一向に戻る様子がなかったので、近所に住むグラディスの使用人の家を訪れた。
この男も元は城に仕えてた男で、今はもう引退していたが信用の置ける人間だったためグラディスの傍に置いておいたのだ。



「これはこれは、アンドレアス様…
こんな夜更けにどうかなさいましたか?」

「グラディスとゼトラがいないのだが…おまえ、なにか知らないか?」

「お二人なら、夕方近くに、アンドレアス様のご用意された馬車に乗って行かれましたが…
会われなかったのですか?」

「私の用意した馬車だと?
私はそんなもの、出してはおらぬ!」

「そ、そんな…数日を森の中で過ごそうとアンドレアス様がおっしゃっていると言って馬車が…」

「だ、誰がそんなことを!!」



次の日、アンドレアスが森へ続く道を密かに捜索させた所、谷底からバラバラに押しつぶされた馬と馬車がみつかり、その数日後、御者らしき男とグラディスの遺体が近くの川の中からみつかった…
小さなゼトラの身体は川の流れに流され、海へ出てしまったようだ。



「なんてことだ…」



彼の名を語り、二人を連れ出したのが何者なのかはわからない…
おそらくは、イングリッドなのではないかと思われたが、そんなことは何の確証もないただの推測だ。
それに、犯人を探し出した所で、グラディスとゼトラが戻って来るわけではないのだ。

それからのアンドレアスは抜け殻のようだった。
ただ、周りから言われるままに人形のように執務をこなし、何の希望もないままに無為な日々を過ごしていた。

やがて、年月は過ぎ、カイラは立派な青年に成長していた。
成長すればするほどに、自分との違いを感じる息子を見るに付け、アンドレアスの脳裏にはゼトラのことが鮮明に思い出される。 
しかし、そんなゼトラはもういない…
グラディスと共に、あの天高くへ昇ってしまったのだ…

アンドレアスは痛む心を忘れるように、広い空を眺めた。

 
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