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005. 交易都市
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なるほど…そんなことだったのか…
糸たぐり屋に依頼をする者達は、近々出会う運命の相手のために美しくなろうと努力をする。
恋をすると美しくなるというあれだ。
そして、それに釣られて出会った男が多少自分の好みでなかったとしても「この人が運命の相手なんだ」と信じているから素直に受け入れる…
この老人は、なんとも巧みな商売を考えたものだ。
「そうだったんですか…」
「今、考えると申し訳ないことをしてしまったと思うんじゃが…
でも、妻は最後までそれはわしの力だと言ってくれた…」
「奥様が…?」
「あぁ……
実をいうとな…妻は、糸たぐりを依頼に来たお客だったんじゃ。
わしは妻を見た時から…その…一目惚れをしてしまってな。
運命の相手はわしだと言い、結婚した。
それと同時にわしは糸たぐり屋をやめ、それからはまっとうに働いたんじゃ。
わしはとても幸せじゃった。
一緒に暮らすようになって、わしは妻のことがなおさら好きになっていった。
本当に心根の優しい良い女じゃったからな。
結婚してから数年が経った頃、わしはすべてを打ち明ける決心をした。
わしに一生懸命に尽くしてくれる妻を見ていると、言わなければならんような気になったんじゃ。
もしかしたら、妻は騙されたと怒ってわしは離婚されてしまうかもしれない。
しかし、それでもわしは言わなければならんと思った。
決死の覚悟を決めすべてを話した後、妻は笑って言ってくれた。
『私は今こんなに幸せなんだもの。
あなたは本物の糸たぐり屋よ。』ってな…」
老人はしわがれた瞳にたまった涙をそっと拭った。
「……それで、奥様は?」
「昨年死んだよ。病気だったんじゃが、苦しむことなく眠るように死んでいった。」
「……そうだったんですか…」
老人の話を聞いていると、少なくともこの老人が悪人ではないことがわかった。
最初は騙して金を取るという悪い気持ちから始めた事だったのだろうが、老人は愛する人との出会いをきっかけにそれを悔い、まっとうな道へ戻ったのだから…
「あんたなら、わしなんかに頼まなくてもきっと自分で赤い糸をたぐれるさ。
なんせ、こんな誰からも忘れ去られたわしをみつけることが出来たんじゃからな。」
そう言って穏やかに微笑む老人に、私も微笑を返した。
この町に来たことを後悔しないで済んだことへの感謝のこもった微笑を…
糸たぐり屋に依頼をする者達は、近々出会う運命の相手のために美しくなろうと努力をする。
恋をすると美しくなるというあれだ。
そして、それに釣られて出会った男が多少自分の好みでなかったとしても「この人が運命の相手なんだ」と信じているから素直に受け入れる…
この老人は、なんとも巧みな商売を考えたものだ。
「そうだったんですか…」
「今、考えると申し訳ないことをしてしまったと思うんじゃが…
でも、妻は最後までそれはわしの力だと言ってくれた…」
「奥様が…?」
「あぁ……
実をいうとな…妻は、糸たぐりを依頼に来たお客だったんじゃ。
わしは妻を見た時から…その…一目惚れをしてしまってな。
運命の相手はわしだと言い、結婚した。
それと同時にわしは糸たぐり屋をやめ、それからはまっとうに働いたんじゃ。
わしはとても幸せじゃった。
一緒に暮らすようになって、わしは妻のことがなおさら好きになっていった。
本当に心根の優しい良い女じゃったからな。
結婚してから数年が経った頃、わしはすべてを打ち明ける決心をした。
わしに一生懸命に尽くしてくれる妻を見ていると、言わなければならんような気になったんじゃ。
もしかしたら、妻は騙されたと怒ってわしは離婚されてしまうかもしれない。
しかし、それでもわしは言わなければならんと思った。
決死の覚悟を決めすべてを話した後、妻は笑って言ってくれた。
『私は今こんなに幸せなんだもの。
あなたは本物の糸たぐり屋よ。』ってな…」
老人はしわがれた瞳にたまった涙をそっと拭った。
「……それで、奥様は?」
「昨年死んだよ。病気だったんじゃが、苦しむことなく眠るように死んでいった。」
「……そうだったんですか…」
老人の話を聞いていると、少なくともこの老人が悪人ではないことがわかった。
最初は騙して金を取るという悪い気持ちから始めた事だったのだろうが、老人は愛する人との出会いをきっかけにそれを悔い、まっとうな道へ戻ったのだから…
「あんたなら、わしなんかに頼まなくてもきっと自分で赤い糸をたぐれるさ。
なんせ、こんな誰からも忘れ去られたわしをみつけることが出来たんじゃからな。」
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