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ルカ(聖夜月ルカ)

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005. 交易都市

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町に着くなり、そこかしこから喧騒といろんなものの入り交じったなんともいえない匂いが鼻先をかすめた。

ここは、このあたりでも一番大きな町。
交易が盛んなとても賑やかな町だ。

私は元々騒がしい場所が好きではない。
だから、つい田舎の方ばかりを好んで旅して来たのだが、先日、ある酒場でふと耳にした噂話が気にかかり、ここまで来てしまったのだ。

その噂話とは、自分の運命の人との赤い糸をたぐってくれる「糸たぐり屋」なるものの話。
運命の相手とは、お互いの足の小指を赤い糸で結ばれているという伝説は今までにも聞いたことがあった。
だが、その赤い糸は時として他人のそれとからみあいほどけない状態になっていたり、中には切れている者や遠く離れているものがあるというのだ。
その「糸たぐり屋」はそんなからんだ糸をほぐし、切れたものは然るべきものと結び直し、遠く離れた糸は近くまで手繰り寄せてくれるという…
噂をしていた男の姉が、その糸たぐり屋のおかげで結婚したという話をしていた。

馬鹿馬鹿しいと思われるかもしれないが、私はその噂話にとても興味をひかれここまでやってきてしまったというわけだ。

それにしても、この町はなんという人の多さだ…
ただ歩くだけでも何度も人にぶつかってしまう。
それに、みんながまるでこまねずみのように慌しく動き回っている。
誰かに声をかけようにも、そのタイミングがうまく計れない。

人酔いしそうになって来た私は、大通りを抜け、人通りの少ない裏道へ逃げ出した。

そのあたりには小さくてお世辞にも綺麗だとは言えない店が連なっているが、その大半は酒場のようで、まだ閉まったままだった。
大通りとは違い、人影もまばらだ。

どこかでお茶でも飲んでゆっくりしたかったのだが、このあたりにはそんな店はなさそうだ。
諦めて裏通りを抜けようと思った時、開店している小さな店をみつけた。
幸いなことにそこは喫茶店のようだった。
私は、迷わずその店の扉を開けた。

軋んだ音を立てながら扉が開く。
薄暗い店内には年配の客が一人いるだけだった。
隅っこの席でコーヒーを片手に新聞を読んでいる。
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