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side 優一

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 「パパー!ただいま~!」

 「おかえり、小太郎!
おじちゃんの家は楽しかったか?」

 次の日、遅めの朝食を食べてから、篠宮さんは帰宅した。
しばらく休んだらまた来ると言い残して……

そしたら緊張が解けたのか、急に眠気が襲って来て、横になってうとうとしていたら、チャイムが鳴って……



「どうしたの?
 二、三日泊まって来るんじゃなかったの?」

 「うん、そうなんだけど、こたが、パパが寂しがってるから、早く帰るって聞かなくて……」

 「亮介さんは?」

 「家で不貞腐れてるよ。」

 「……困ったもんだね。」

 小太郎が僕のことを想ってくれるのは嬉しいけど……亮介さんにしたら当然面白くないことだと思う。
 僕としても複雑な気持ちだ。



 「ところで、優一……私達がいない間になにかあった?」

 「なっちゃん……篠宮さんに何か言ったね?」

 「たいしたことは言ってないよ。
 私とこたは数日亮介の家に泊まって来るって言っただけ。」

 「そう……」

 「来たんだね、香織さん。」

 「うん……」

 僕は、昨夜のことをすべて話した。
 話していても、なんだか不思議な気がした。
 篠宮さんが実は独身で、しかも僕と同じ気持ちだったなんて……
なっちゃんに話しながら、僕は照れくささと嬉しさの入り混じったおかしな気分を味わっていた。



 「やったじゃん!
 良かったね!」

 「ありがとう……
でも、まだ僕には自信がない。
だから、付き合うのもいつからになるかはわからないよ。」

 「おいおい。そんな悠長なこと言ってたら、香織さん、年取っちゃうよ。
あんただって子供ほしいでしょ?」

なっちゃんはおかしなことを言うから、僕は飲んでいたお茶にむせてしまった。



 「こ、子供って……
ぼ、僕らはまだお互いの気持ちを知ったばっかりで……」

 「あぁ~~…
あんたは本当に草食だね。
お互いに好きだってわかったのなら、結婚すりゃあ良いじゃない。」

 「そんなわけにはいかないよ。
 付き合ってみたら、お互いいやな部分だって見えるかもしれないし……
そんなことより、なっちゃんの方は大丈夫なの?
 小太郎にはまだ引っ越しのことさえ言ってないんでしょう?
それに、翔君ママや他の幼稚園のママさん達にも、まだ本当のことを言ってない。
どうすんの?
もうすぐだよ。」

 「聞きたくない、聞きたくない!
 私もそのことは悩んでるんだから……」

なっちゃんはそう言って、両手で耳を塞いだ。 
 
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