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side 香織

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 「ごめんね。
こんな所に呼び出して……」

 「いえ……」



前日の夜、夏美さんから、明日、駅前のカラオケに来てもらえないかな?との電話をもらい、カラオケが苦手な私は一瞬戸惑ったけど、カラオケに行くってわけではなくて、ただゆっくりと話をしたいということだった。
夏美さんと会うことは、堤さんには内緒にしてほしいとのこと。
堤さんには聞かせたくない話って一体なんだろう?と、気持ちが少しざわついた。



 「あのね……
もうじき、私達、戸田野の亮介の家に引っ越すつもりなんだ。」

 「そうなんですか……
近いとはいえ、寂しくなりますね。」

 「こんなことになるとは考えてもみなかったからね……
優一はまだあんな調子だし、本当はすっごく心配なんだよね。
多分……香織さんがいなかったら、私、こんなに早くは家を出る決心はつかなかった。」

 「……え?私……ですか?」

夏美さんはゆっくりと頷かれた。



 「単刀直入に訊くよ。
香織さん……優一のこと、好きだよね?」

 「え?ええっっ!」

夏美さんの思いがけない言葉に、鼓動は速くなるし、顔は熱くなって汗は出て来るし、焦って言葉も出てこない。



 「……気付いてたよ。
 二人とも、わかりやすいんだもん。」



 (二人とも……?)



 「それとね……山野さんがうちに来た時、聞いたんだ。
……香織さんが独身だってこと……」

 「えっ!?」

ショックだった。
夏美さんが、私の言ったことが嘘だと知ってたなんて。



 (あ……だからあの時……)



私は以前、翔君親子と皆で食事をした時のことを思い出した。
堤さんが、私のことを既婚者だからって話をされて、翔君ママがそれを聞いておかしな顔をされた時、夏美さんがまるで追い立てるように翔君ママを帰らせて下さったのは偶然じゃなかったんだ……



「ご、ごめんなさい!
つまらない嘘吐いて!」

 「良いんだよ、そんなことは……
でも、ひとつだけわからないんだけど、小太郎や優一が見た子供っていうのは誰だったの?」

 「子供……?」

 私にはもちろん子供なんていない。
 小太郎ちゃんや堤さんは一体誰のことを言っているのだろう?



 「うん、小学生くらいの男の子らしいんだけど……」

 「小学生の男の子って言ったら、奥様の…山野さんのお子さんのサトシ君くらいしか……
あ!わかりました!
サトシ君、私のことを『かーちゃん』って呼ぶからそれで……」

 「なんで『かーちゃん』なの?」

 「『かおり』の『か』をとって……
サトシ君、いくつか私のニックネームを考えてくれて、カオリンはあまりに似合わないし、それでかーちゃんになったんです。」

 「あ、なるほど!かおりのかーちゃんか!」

 夏美さんは、納得したように手を打たれた。
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